「貴様、『石』をまだ持っていたのか!?」
「まっさか。そうそうあるわけないじゃん」
ラッセルは両の掌を上に向ける。その手に『石』は無く、錬成陣だけが描かれていた。
驚いた。相当知識があったようだし、それなりに錬金術を使えるかとは思っていた。
だが、今までずっと『石』を使っていたし、まさかここまで出来るとは思っていなかった。
突き出る物体を、とっさの判断とスピードで止めたのだ。天性の才能と言ってもいい。おそらくエドワードと互角の力を持っているだろう。
「ふーん…決めたみたいだね、覚悟」
「お陰様で」
よせ、と父には言われたけれど、人のために錬金術を研究していた父を尊敬していたから
「人のために錬金術を使うって、俺自身が決めたんだ」
明るい表情でラッセルは言った。その顔に以前あった憂いはもうない。彼の表情に、クライサは笑みを浮かべた。
「『石』なしで、ワシに勝てると思うな!」
マグワールの大砲が再び発射される。頭上に飛んできた弾をしゃがんで避けたクライサの横で、ラッセルは剥がれた床から露出した木の根に手を当てた。光が散り、根がうねって弾に絡みつく。
クライサ一人では防御に精一杯だったが、ラッセルが加われば別だ。敵の武器を切ったり凍らせたりでは上手くいかなかった防御も、ラッセルが得意とするやり方でならうまくいきそうだった。
「ラッセル、防御よろしく!」
「ああ。そっちこそ、あのオジさんを大人しくさせてこい」
「任せといてよ」
二人は目で合図すると、同時に壁を飛び出した。
「ええい、ちょこまかとっ」
マグワールがクライサに向け大砲を続けて撃つ。だがラッセルの錬金術によって、猛烈な勢いで木の根がのたうち、持ち上がり、絡み合い、ネット状になって弾を絡めとってしまった。
弾の轟音と根の軋む音で、ホール全体がびりびりと震えている。弾の砕けた粉塵から、クライサが飛び出した。
「あたしたちの勝ちだよ!」
慌てたマグワールが大砲を撃つより早く、少女の両手が砲身に当てられる。その部分から凍りついていき、大砲が完全に氷に包まれる。
その様を、マグワールは確認できなかった。
クライサの拳が頬に打ち込まれ、男は気を失った。