向かってきた弾を、床から巨大な手を錬成し防ぐ。メリメリと剥がれた床の下で、植物の根や土が露になった。
どんなに頑丈な壁を作っても、個人の屋敷の床程度が元では限界がある。砲弾が当たるたび壁は大きく震え、ひびが入っていった。
「接近戦に持ち込めれば、絶対あたしの勝ちなのに…」
今度は頭を狙ってやるのに。悔しそうに呟いたその時、後方の扉が開いた。
「クライサ!」
「な……ラッセル!?」
ホールに入り込もうとしているのは、ラッセルだった。目の前の惨状に一瞬息を呑みながらも、すぐに走ってくる。
「バカ!来んな!!」
巨大な砲弾が次々に飛んでくる状況だ。ラッセルを守りながら戦う余裕は、正直無い。
「足手まといになるだけだよ!どっかに隠れてろ!!」
マグワールも彼に気付いたらしく、弾がそちらにも向かっていった。
「ラッセル、お前はもう『石』を持ってないんだ。戦いには参加できんよ」
巨大な弾がラッセルを襲う。彼はそれを間一髪で避けると、クライサの元へと走った。
「ラッセル!」
そこにまた弾が飛んでいき、思わずクライサが叫ぶ。だが、その隙をつかれた。
「これで終わりだ!」
マグワールの勝ち誇った声。それが聞こえると同時に、クライサの錬成した壁の斜め下から、円錐型に変形した床が飛び出した。
(しまっ…!)
真っ直ぐに、勢い良く少女へと向かうそれ。クライサに、それを防ぐ時間はなかった。衝撃を覚悟し、堅く目を瞑る。
だが、一向にやってくる気配のない衝撃に、恐る恐る目を開いた。
「……?」
クライサを襲う筈だった凶器は、彼女の眼前で停止したままだった。
「…誰が、足手まといだって?」
耳元で聞こえた声に、少女はその主へと目を向ける。
「…ラッセル」
背後から、肩越しに伸ばされた腕。凶器を抑える手に、まとわりつく木の根。根は床から鋭く伸び上がるようにして、凶器に絡み付いて止めていた。錬金術が使われたことは明らかだ。
「そんなバカな…っ」
驚愕するマグワールの前で、ラッセルが軽く手を払う。すると手に絡み付いていた根はボロリと崩れて落ちた。