床から棘を錬成しても、相手に辿り着く前に破壊される。銃口を凍らせても、すぐに新しい銃を錬成される。壁を作って身を守ろうとしても、大量の銃弾を前にそれも崩れていってしまう。
質量も、マグワール個人の力量も無視した攻撃。戦闘に慣れているクライサだが、『石』が相手では流石の彼女も苦戦を強いられるようだ。
「どうした?国家錬金術師とはこんなものなのか」
「うっさいな!」
壁の後ろから飛び出すと、素早い身のこなしでマグワールの懐に入り込む。
彼が巨大な大砲を錬成している最中で、一瞬隙が生まれたために出来たことだ。この機会を逃しては、もう接近戦に持ち込むことすら出来ないかもしれない。
(決める!)
得意の回し蹴りを繰り出す。距離は十分、速さも申し分ない。相手の腹部に命中し、相手は呻きながら床へ崩れ落ちる。そこで長かった戦いは終了。
そう、思っていた。
(ウソ、)
蹴った腹部が、硬い。腹筋が鍛えられているとか、そういうことではなくて。
「!!」
床に膝をついたマグワールの手元から、円錐状に変形した床が飛び出す。クライサは紙一重でそれを避けると、後転するようにして距離をとった。立ち上がったマグワールに、腹部を痛めた気配はない。
「なに、一瞬だけ服を鋼鉄に変えただけだ」
「うわ…自然摂理の法則も丸無視?ほんっと最悪…」
一瞬服が重くなったから、床にしゃがみ込んだということか。錬成を行う時間を与えてしまったなんてと舌打ちする。
「…さて、遊びは終わりだ」
はっと目を見開く。錬成途中だった大砲が、マグワールの手によって完全な形になってしまった。
慌てて反転し全速力でそこを離れる。少女を追うように、大砲に比例した巨大な弾が撃ち出された。
向かってきたそれを、ギリギリのところで避ける。目標を通り越した弾は、ホールの壁にめり込んだ。
「いいの!?館が壊れるよ!!」
「館などすぐに作れるさ。今は君に消えてもらうほうが重要だ」
二発、三発と続けて弾が発射される。それはクライサに命中することはなく、次々と壁や床、階段にめり込んでは崩していく。