(七夕話)
空を流れる星の川。『天の川』と呼ばれるそれの両岸に分かたれた一組の恋人が、今宵年に一度の再会を果たすのだ。
今夜は雲一つ無い、綺麗な夜空。こちらを見下ろす星々はどれも美しく輝き、恋人達の再会を祝う人々の願いを叶えるのだろう。…ああ、私もこの星空を、愛しい人と共に眺めたいものだーー…
パパン。
「大佐、星に祈る暇があるのなら仕事をしてください」
「……はい」
二発の弾丸が耳スレスレを通り、壁にひび割れのような跡を残して埋まる。ホークアイに引き摺られるようにして屋内に連行されていったロイを見送って、クライサは肩を竦めた。その横でリオンが溜め息を吐く。
「ここ最近サボりまくってたツケだな」
「さっきちょっと見たけど、あの書類の山は今日中には終わらないだろうね」
「自業自得だ」
中庭のベンチに二人並んで腰を下ろし、涼みがてら星空を見上げて30分。リオンが左手に持ったカップの中身を飲み干すと、クライサが用意した小さめのポットを掲げ、確認してからおかわりを注いだ。
ベンチの横には、どこから持ってきたのか大きな笹が立てられており、昼間騒ぎながら吊るした飾りや短冊でいっぱいになっている。葉がほとんど見えない程だ。いい年した大人どもが何をやっているんだか。
ふと、隣の少女が何やら難しい顔をして空を見上げていることに気付いた。どうかしたのかと尋ねてみれば、返ってきたのは細やかな疑問。
「や、なんで星の輝きってバラバラなんだろうなーって」
「…ああ、確かにそうだな」
「文献とか探してみようかな…なんか気になってきた」
きっと理科の教科書にでも答えは載っているのだろうが、あいにく天体に興味が無かったリオンは読んでいない。軽く流そうかと思ったら、思いの外彼女は真剣なようだった。
「ちなみに、今のところのお前の仮説は?」
「直列と並列の違いみたいな」
「……ああ、電池の繋ぎ方によって明るさが変わるってやつな」
小学生時代の実験で使った豆電球を頭に浮かべながら、遠い目を再び空に向けた。
012:化学反応
ロマンチックのロの字も無い
【H21/07/07】