「さっさと諦めて大人しく裁かれなよ。ちゃーんと役人さんに連絡入れといてあげるからさ」
「裁判は困るな。『水』も返してもらう。…今なら、国家錬金術師にも勝てるしな」
手の中の紅い石を掲げて見せる。それを持っているという自信が、マグワールを落ち着かせていた。
「悪いが、君たちを無事に帰すわけにはいかなくなったな」
そう言うが早いか、片手を階段の手すりに当てる。錬成反応が起こると、そこから巨大な銃が生まれ出た。
手すりを台座にして広い口径を持つ二連の銃が現れた時には、クライサも床から長刀を錬成したところだった。
「蜂の巣になれ!」
笑い声と共に大量の銃弾が発射される。それを避けながら、クライサは柱の裏に隠れた。
「ったく…数撃ちゃ当たると思わないで欲しいね」
彼女を追うように動いた銃口。クライサが隠れている柱を、無数の弾丸が抉っていく。徐々に元の形を失っていくその陰から、少女は勢い良く飛び出した。
それを追うべく銃口の向きを変えようとするマグワールより早く、少女の足が床を蹴る。マグワールのいる方向へと跳んだクライサは、手すりの高さを優に越え、空中にとどまった状態のまま長刀を振り下ろした。
「くっ!」
「あたしのスピード、甘く見ないでよね」
マグワールの後方に着地するのと同時に、斜めに斬られた銃の先が床に落ちる。一瞬顔を歪めたが、彼は再度手すりに手を当てた。
そこから、今度は手持ち用の機関銃が錬成される。クライサは素早く反応し、床から壁を錬成して弾を防いだ。
「そんな壁、すぐにぶち壊してくれる!」
みるみるうちに壁は原型を失っていき、役割を果たさなくなる。完全に弾を防げなくなる前に、クライサは階段の下へと飛び下りた。
「くっそー、『石』に頼るしか能が無いくせに!」
壁を錬成し続けながらマグワールから距離をとる。
『石』を使っているせいか、彼の持つ銃からは尽きることなく弾が発射される。待っていても隙は出来そうにない。
(どうしよ…)
このままではクライサの体力が尽きるか、逃げ場が無くなるだけだ。何か突破口を見つけ出さない限り、彼女に勝ちはない。