「わはははっ!大した錬成技術がないワシにもここまでできるとは、素晴らしい『石』ではないか!」
館のホールに響く笑い声。
ラッセルから取り上げた賢者の石を持ったマグワールが、使用人にくず石を持ってこさせては、金に変えている。
試作品なので無理は出来ないとは知っているが、目の前で金が出来るさまに錬成は止められない。
「僅かでも『水』さえあれば研究は続けられるし、天才錬金術師のエドワード殿が完璧な『石』を作ってくれる」
町の人たちも、この金を見れば研究費を惜しまないだろう。
一人で納得して錬成を続ける彼に、後ろから声がかかった。
「それでまた金がなくなったら、苦しい生活になるだけだよ。…ま、アンタには関係ないんだろうけど」
「クライサ殿!?」
第七章
驚いて振り向いたマグワールの前に、クライサが立っていた。彼女が手の中の試験管を振れば、チャプン、と紅い水が揺れる。
「これっぽっちの『水』で町民をがんじがらめにするのは、あまり褒められた行為とは言えないよねぇ」
言いつつクライサはホールを見回す。町の様子に比べ、この屋敷や調度品はかなり立派なものだ。
(ま、横流しなんかで貯蓄が人の百倍はあるんだろうけどね)
クライサの考えていることを気にする余裕は、マグワールには無い。ただ振られる紅い水が零れないか心配でたまらないようだ。
「クライサ殿、『水』を返してください。それがないと研究が」
伸ばされた手を、少女は軽々とかわす。そのまま距離をとると、口を開いた。
「研究なんて続けられないよ。材料もやり方も分からないのに、途中過程からここまで出来たのが奇跡なくらいだし」
「そんなこと仰らないでくださいよ。あ、成功した時の利益の五割ならどうです?」
クライサが交渉を持ちかけているのだと勘違いしたらしい。だが彼女は、その言葉を軽く無視した。
「気になってることが一つあるんだよね」
「…な、なんです?」
「いいところまでいっていた、ナッシュ・トリンガムの研究資料…アンタのことだし、手に入れようとした筈だ」
「…あ、あれは、ナッシュが処分してしまって、どこにもない」