「町の人は皆いい人で、俺はここを好きになったし、『生命の水』で緑いっぱいになれば、きっと金細工だけじゃない別の暮らしもできるだろうって…」
これで全てに合点がいった。
だが、マグワールの野望も、ラッセルの願いも、町の望みも、目指したものはどれも形にならなかったわけだ。
「…俺は、父さんのようになりたくて、父さんの跡だけ追って、結局何もできなかった」
「……」
「町のためになることをして、父さんに褒められたかったんだ…」
苦しそうにラッセルが言う。そこで初めて、ただ傍観しているだけだったリオンが口を開いた。
「お前がやることは、他にあるだろ」
『賢者の石』や『生命の水』がなくても、自分の両手はあるじゃないか。
緑にしたければ、町の石くずをどかせばいい。金を探したければ、金脈を探す手伝いをすればいい。
「父親とやり方が違ったって、きっと褒めてくれるさ」
その言葉に合わせるように、エドワードは両手で格子を握った。そのまま格子がグニャリと曲がる。
「いつまでもこんなとこで泣いてんじゃねぇ。前に進めよ。みっともないことはすんな。オレの名前を騙ったからにはな」
エドワードは牢に入ると、二人の手錠を壊して外に出る。その手を引いてやることはしない。ここを出る時は、自力で立ち上がらないといけないと知っているからだ。
「行こう、アル、リオン」
「う、うん」
「ああ」
リオンは、人が通れるくらいに曲がった格子を見る。奥ではフレッチャーが兄に寄り添っていた。
エドワードたちが出て行ったのを確認すると、ラッセルを見下ろしながら口を開く。
「そんな姿、クライサが見たら何て言うだろうな」
少女の名を出すと、跳ねるようにラッセルの顔が上がる。それに僅かに笑みを浮かべると、出口に向かい歩き出した。
「好きな女の子の前では、ちゃんと格好良く振る舞えよ。男だろ?」
それだけ告げると、リオンは地下から姿を消した。
館のホールで、『石』の試作品を手に笑い声を上げる男。
その背後に立つ少女が、氷のような冷たい表情を浮かべていたことに、残念ながら、男は気付いていなかった。