ナッシュは、錬金術はもう嫌だと言っていたが、町の荒れた様子を見ると、『生命の水』の研究もさせてくれればやると言った。
『石』が完成したら、軍に口を利いて追われないようにしてやるつもりだったし、研究も好きにさせてやるつもりだったのだが。
『石』のためになら材料を何でも使えと言ったのに、いつまでも同じ材料ややり方を繰り返すだけで埒があかない。
「研究費だって馬鹿になりませんし、地下で反省してもらっていたのですが、錬金術師ですからね、あっさり扉を作って逃げてしまいました」
当時残っていた別の錬金術師たちが色々実験したのだが、やはり途中でやり方が分からなくなってしまう。
「そこに現れたのがラッセルだったんですよ。何やら蒸留方法が違ってたとかで、残されたままだった途中の物質をあそこまで作り上げたのです」
「へー」
エドワードとクライサは感心する。材料も分からない物を適切なやり方で作り上げたのだ。本当だとしたら大したものだ。
「ですが、残ってた物質も、失敗を繰り返すうちに残り僅かになってしまってましてね。残ったもので原料を判別して元からやり直そうと躍起になってるんですよ」
「なるほどね」
「どうです?やってくれますか?残った水から、原料を識別できますかね?」
ここまで喋ってから、マグワールは急くようにエドワードに訊く。
昨夜は原料の識別など無理だから、この研究は失敗だと言った。だが、エドワードはここでは渋ってみせる。
「…ラッセルたちに話を聞いてみないことには。なあ、アル」
「そうだね、兄さん」
エドワードたちの言葉に、マグワールはダメだとは言わなかった。研究を引き受けてくれるまであと一押し、と判断したのだろう。
「どうぞどうぞ。地下で大人しくしていますよ。ラッセルが少々錬金術を使えるのでね、見張りをつけて気をつけています」
地下に向かい、重い鉄の扉を開けると、通路を挟んで両側に牢が二つずつ並んでいる。
見張り役を下がらせ自分たちだけにしてもらうと、エドワードたちは中に足を踏み入れた。
右側の奥の牢。その格子の向こう側に、ラッセルとフレッチャーはいた。両手には手錠がはまっている。