彼らが侵入したことには触れず、ニコニコと笑顔を向けてくるマグワールには、下心がありありと見てとれた。クライサにも同じような態度をとっていることから、彼女もエドワードたち同様研究に誘おうとしているのだろうことが分かる。
食堂には暖かい食べ物が用意されており、四人は席につき、マグワールの笑顔を振り撒かれる羽目になった。
マグワールは今回の経緯について、偽者が以前雇っていた男の息子たちであることなどを説明した。つまり、自分に非はないと言いたかったようだ。
自分たちを地下牢に入れなくていいのか、とエドワードが問うも、マグワールはそれに首を振る。どうやら不問にするつもりらしい。
金の錬成は違法なのだから、そのために作っている『石』の件を表沙汰にはしたくないのだろう。
もちろん、研究をやめるつもりはないようだ。
「…ただ、錬金術師がいなくなってしまったので、どうしようかと。『賢者の石』を完成できる実力の持ち主がいないものかと思いまして」
「…それをオレたちにやれ、と?」
エドワードの単刀直入な言葉。スープを飲みながら、クライサがその目をマグワールへと向ける。
「もちろん、見返りに利益の四割ほど差し上げます。かわりに」
金の錬成については軍部には黙っておけ、と。
「まあ、隠そうと思えばいくらでもできますけどね」
「どうでしょう?『賢者の石』の研究は、錬金術師としても惹かれる題材だと思うのですが…」
「そうですねぇ」
エドワードの返答を待つマグワールを、彼はわざと焦らす。ここで研究などするつもりはない。だが、もう少し知りたいこともあった。
「…何か問題でも?」
「いえ、人のやりかけの研究をやるのはプライドが許さないタイプでね。せめて、あれを作ったナッシュさんについて教えてくれませんかね」
ナッシュ・トリンガム。
ラッセルとフレッチャーの父で、この町出身の男だった。
中央に出て行って錬金術の研究をしていたが、何故か脱走してきたのか酷く怯えていた。
そのため、かくまってやる代わりに『賢者の石』を作るよう頼んだのだ。