「……結局、追い出されたな」
「そうだね」
「……なんかスッキリしねぇなぁ」
エドワードはラッセルに殴られた頬を撫でながら呟く。
「『石』はなかったし資料もなかったし、ラッセルたちが偽名使おうがいずれ困るのは本人だし、後ろ向き思考の町人ばっかだし、この町が廃れても関係ないし、だったらこの町に用はないし」
少年はツラツラと並び立てる。クライサは横で頷き同意しているが、徐に口を開いた。
「そうだね。本物の『石』ではなくても試作品は使われてるみたいだし、資料がなくても『水』はあったし、フレッチャーは偽名使ってるのを反省してるみたいだし、町の人も言いなりじゃダメだって気付き始めただろうし、だったら廃れるのは勿体無いし……色んな分岐点に居合わせちゃったね」
言い終えると同時に、エドワードを横目で見る。彼も同様にクライサを見た。
「ホントは気になるんでしょ」
「そんな言い方されればな」
「エドワードくんの気持ちを代弁してあげただけですよ?」
もう一度塀を見上げる。静かになってしまった向こう側で、何が起こっているのかは分からない。そして、今までに何が起きていたのかも分からない。
ーーどんな思惑が渦巻いているのかさえも。
「…『賢者の石』も『金』も、どうでもいい…か」
エドワードは、ラッセルの言葉を繰り返す。ラッセルの目的は何なのだろうか。気になる。二人は首を傾げた。
(とにかく…)
今夜の出来事を考える時間が二人に与えられたことは、確かだった。
「……ごめんなさい、兄さん」
錬成した扉を塀に戻して、フレッチャーはラッセルに向き直った。そのまま俯き謝る。
兄の表情はいつもと変わらないが、怒鳴りたいのを堪えているのがよく分かった。
「ごめんなさい。錬金術を使って」
「……」
錬金術は使わない、と約束したのに。
ラッセルの視線が痛い。フレッチャーは兄の顔をまともに見れなかった。
「…父さんが悲しむぞ。錬金術を使わせたくないって言ってただろ。俺としても、せめてお前だけでも使わないでいて欲しかったのに」