この場面で彼が自分を騙すとは思わなかった。待ち伏せされてエドワード共々捕まるかもしれないと考えなかったのは、フレッチャーの視線が強いものだったからだろう。ーーまるで、覚悟を決めたような。





警笛が鳴った時、エドワードとラッセルは錬成で崩れた敷石を投げ合っているところだった。低レベル過ぎて呆れてくるが、クライサは幸いその場にいなかった。

「なんだ?見つかったのか!?」

エドワードは敷石を捨て、館に点き始めた灯りを振り返る。ラッセルも同様に周囲を見回し、警備員が走ってくるのを確認した。

「手を出すなと言ってある筈なのに…!」

「お前、信用されてねーんだ」

囲まれる前に脱出しようと走り出すエドワードを、中庭の奥からクライサが呼ぶ。

「エド、こっち!」

「クライサ!」

「あ、待て!」

ラッセルもそれを追う。彼らをちゃんと追い出さねば、自分たちの立場も危うい。自分の保身ばかりを考える彼に、クライサは不機嫌そうに眉を寄せた。

二人は少女に続き中庭を後にし、導かれるままに塀の前にやってきた。そこにいるのはフレッチャーだ。

「フレッチャー、お前なんでここに…マグワールの所にいろと言っただろ!」

ラッセルが怒ったように言うが、フレッチャーはそれを無視して両手を塀に当てた。そこには錬成陣が描かれている。光が鋭く広がり、消えた後には扉が出来上がっている。

「早く逃げて!この裏なら警備の人はいない!」

叫ぶフレッチャーに、エドワードとクライサは驚きの視線を向けた。彼が錬金術を使えるとは思わなかったのだ。

「エドワードさんたちが捕まれば、僕たちだってただじゃ済まないんだ。お願い!」

二人はフレッチャーに背中を押される。偽名がバレれば、確かにラッセルたちはマズイことになるだろうが、エドワードたちは本来の名前を名乗れるのだ。それをバレたくないからとお願いされたところで聞く義理はない。
だが、フレッチャーの強い眼差しに気圧され、二人は扉を出てしまう。その後すぐに扉は閉じ、再び塀に戻ってしまった。

騒がしさは塀の向こうで続いているが、クライサたちが立つ塀の外は恐ろしく静かだった。警備員がやってくる気配もない。









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