「…言ったな。言っちゃならんことを言いやがったな…」
『小さい』発言をされ、ぶちギレたエドワード。
「フン、直情型の子猿のくせに」
相手からの『老けてる』発言が、逆鱗に触れたラッセル。
罵り合いの交じった戦いは、弟たちが止めたくなるほど低レベルだ。だがその弟たちはこの場にはおらず、兄たちの戦いは更に激しさを増すのだった。
第五章
エドワードたちが激しい戦いを展開している頃。クライサは一人、脱出路を確保するため塀沿いに歩いていた。
「……ちょっとまずいかも」
屈むようにして警備員をやり過ごしながら、クライサは呟く。
入ってきた時は、警備は門の外に三人立っていただけだった。だが今は、
(門の前に三人、塀の外にも何人かいるな…)
塀を出れば途端に捕まってしまうだろう。
「…あっち側は有刺鉄線が張ってあった…よね」
入ってきたところとは反対方向へと目を向ける。
(鉄線があれば乗り越えられないと思い込んでくれてれば…)
そこに警備員はいないだろう。
塀のそばには何本か木がある。ジャンプ力に自信があるクライサにとって、少しでも足場があれば三メートル程度の壁など簡単に飛び乗れる。
鋼が仕込んである特注の靴なら、有刺鉄線の上にでも怪我無く乗ることが出来る。
入ってくる時同様鉄線をロープのように使えば、鋼の腕を持つエドワードも無事に壁を乗り越えられるだろう。
「…そこを使うか」
クライサが身体を起こした瞬間、目的の塀の前で、木が大きく揺れた。まさか警備員がいたのかと、目を凝らす。だが、確かめる暇はなかった。
ピイィィーーーーッ!!
「!!」
夜気を切り裂くように、警笛が鳴った。館のほうに目を向ければ、灯りが次々と点いていくのが見える。
(まずい…!!)
緊張する少女を、誰かが呼ぶのが聞こえた。
「クライサさん!」
目的の塀の前にフレッチャーがいるのが確認出来た。どうやら木が揺れたのは彼のせいだったらしい。
「フレッチャー?」
「エドワードさんを呼んできて下さい!このままじゃ捕まっちゃう!」