ラッセルは『賢者の石』を作るために研究費を貰っている筈だ。彼自身『石』が欲しくて、エドワードたちの名を騙っていたのではないのだろうか。
「…『賢者の石』も『金』も、どうでもいいのさ」
町の人を騙しているのか。エドワードの表情に怒りが籠る。
「町のためになることを目指してるのは本当さ。多少やり方が違うけどな」
「でも騙してるんでしょ。最低だね」
クライサもまた、不機嫌そうに顔を歪める。彼女は、ラッセルのことが心底嫌いだ。それはエドワードも同じで。
「ホント、やな奴…」
「だったら、そろそろ本当に町から出てってよ。こっちだって危険なんだし」
ラッセルたちはあくまで偽者だ。マグワールに疑われてはまずい。だがクライサたちにとっては知ったことではない。
「じゃあバラしちゃおうかな」
「…そんな気が起こらないように、痛い目を見てもらう必要がありそうだね」
意地悪く返すエドワードに、ラッセルも応じる。止めようとフレッチャーが兄の腕を掴むが、それは振り払われた。
「お前はマグワールが地下から出てこないよう見ていろ」
「…でも」
「早く行け」
フレッチャーは何か言おうとしていたが、やがて黙って出て行ってしまった。ラッセルを見るクライサの目に、非難が籠る。
「マグワールには、賊が入ると危ないからと地下にいてもらってるが、俺たちが危険なのに変わりない。出て行ってくれ。そして二度と戻るな」
「やるなら力づくでどうぞ。そのかわりオレが勝ったら、この研究室に関する全てと、あんたの目的を教えてもらうぜ」
どうも色々と気になる。隠し事はなしといきたいところだ。
昨夜と同じ、月明かりの石畳で二人は向き合った。クライサはエドワードの後ろで、二人が乗り越えてきた塀の辺りを見る。
「クライサ、手出しすんなよ」
「しないよ。脱出路を確保しとくから、好きに戦いなさいな」
「おう」
エドワードがそう答えたのを合図に、戦いは始まった。
エドワードがそう簡単に負ける筈がない。絶対の信頼感があるから、振り返ったりはしない。自分は自分の仕事をするだけだ。
後ろを見ることはせず、クライサは塀に向け歩き出した。