材料の選別は、作り出すことよりもずっと難しい。一を百に分解するようなものだ。
「無理、だよね」
「無理だな。出来上がったセーターが、どの羊のどの辺りの毛を何本使って作られているか探してるようなもんだ」
二人は同時に溜め息をついた。見つけたと思えば、するりと逃げて行く。簡単に見つからないとは分かっているが、失望感は拭えない。しかも今回はかなり手応えがあったため、それは尚のことだ。
「…んで、無理みたいだけど。どーすんの?」
「?」
不意に口を開いたクライサにエドワードは首を傾げたが、彼女の視線が自分でないほうに向けられているのに気付く。そちらへ目を向けると、
「うぉわ!?」
腕を組み、深くうなだれたラッセルが扉にもたれていた。その後ろにはフレッチャーもいる。
「……て、めぇっ、入ってくるなら堂々と入って来いよ!」
「夜遅くに人の家に忍び込む君に言われたくないよ」
飄々とした表情で返され、確かにそうだ、とエドワードは言葉に詰まる。
クライサたち二人に目を向けたラッセルの表情は、真剣なものになっていた。
「……本当に、失敗だと思うか?」
「失敗だね。材料も過程もないんじゃね。ある程度できたものから材料を識別するのも、まず無理だよ」
はっきりと言い切ったクライサに、ラッセルは僅かに苦渋の表情を浮かべ、少しの間黙り込む。
「…国家錬金術師の君たちが言うなら、間違いないかもな…」
「…もしかして、わざとここに忍び込ませたのか?鍵が盗まれたのを知っていて?」
エドワードの問いに、ラッセルは自嘲気味に唇を歪ませた。
「噂に名高い天才錬金術師なら、俺が分からないことも分かるかもと思ったからさ」
ご意見を拝聴したくてね。そう続いた言葉に、クライサは隣の部屋へと視線を向けた。
「錬金術は科学だからね。原料も資料もなしに、あんなの作れるかっての」
「ここまで出張してオレたちの意見を聞かせてやったんだ。教えてもらってもいいよな。…あれは、なんだ?」
「…『生命の水』。俺はそう呼んでる」
『生命の水』
石の作成に関わる赤い液体のことだろうか。
「あれは『石』を目指して作った物じゃない。『生命の水』として作ったのさ。…不完全品だけどね」