集中するエドワードを静かに見守っていたクライサだったが、ふいに視界に違和感を覚えた。
エドワードの後ろにあたる壁。初めは彼の影が動いたせいだと思ったが、もう一度見るとそれは確かに違っている。

「エド」

手元にあった分厚い本で、集中しているエドワードの頭を軽く叩く。だが、軽くとは言え重さのある本で叩かれればやはり痛い。

「いっ…てぇな!わざわざ殴らなくても、声かけりゃ答えるっての!」

「これ、何か変じゃない?」

エドワードの言葉に返すことはせず、問題となる壁を指差した。その反応に文句の一つも言いたくなったが、少女の真剣な表情に口を噤み壁を見上げる。

「……少し色味が違って見えるな」

「あ!エド、見て!」

クライサが再び同じ壁を指差す。だが今度は壁全体でなく、その一部に限定されている。

「!」

エドワードも、彼女の指差す先にあるものを発見した。髪の毛程の細い筋が、目の前の壁に見える。注意して見れば、天井近くまで高い二本の筋がある。
あまりに細いひびのような線だが、僅かに漏れる赤みを帯びた光が白い壁をほんのり染めていた。

この向こうに部屋がある。二人は視線で合図しあうと、ゆっくりとその壁を押してみた。ずしり、とした重みが両手に伝わってくる。
音も無く壁が向こう側に開くと、そこはそれ程大きくない部屋だった。作業するには少々不便そうだ。長方形のその部屋に窓はなく、中央に机が一つ置かれている。先程まで人がいたのだろうか、ロウソクが一つ灯っていた。

そして、二人を釘付けにする一つのフラスコ。栓をされたガラスの底に、ほんの少しだけ液体が入っていた。僅かな僅かな、紅い液体。

「エド、これ…」

「ああ」

それをじっと見つめる。目的そのものの『石』ではないが、失望感はなかった。むしろ湧き上がる、近付いた、という興奮。

エドワードたち兄弟は、今までに文献や失敗作を見てきた。失敗作でも一種の感動は味わえる。その物体に我を失ってはいけない、と分かっていても、魅了する力に見とれることもあった。
これも、今まで見た物と同様、完全な『賢者の石』ではないと分かった。だが、それを知っていてもなおこの力が『石』への手がかりを秘めていると、直感が告げていた。








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