「フレッチャーが?」
第四章
「うん、反省してるみたいだった」
ベルシオの家の軒下に腰を下ろし、アルフォンスはリオンの問いに答える。
午前二時。明かりの消えた町は寝静まっている。
昨夜マグワールの屋敷に忍び込んだ際、エドワードとラッセルは一戦交えた。
その時に殴られた箇所が青痣になっており、アルフォンスは昼間、その痣に貼る湿布薬を求めに薬屋へと向かった。
そこで、たまたま『アルフォンス様』ことフレッチャーに会ってしまったのだ。
「フレッチャーは、ラッセルとは意見が違うみたい」
その時も昨夜も、彼が嘘に苦しんでいることがよく分かった。ポーカーフェイスで本心がよく見えない兄と違い、苦しくて辛くてたまらないと全身が語っている。嘘をつくことに疲れているようにも見えた。
「……そうだろうな」
リオンがクライサと共に屋敷を訪ねた時も、ラッセルと違いフレッチャーは終始ビクビクとしていた。そんな人間が、好き好んで嘘をついているとは思えない。
「兄貴についていかなきゃならない。そう思ってるんだろ、フレッチャーは」
兄について行くことで、弟としての愛情を見せるしかない。そう考えてしまうのは、同じ弟であるアルフォンスにもよく分かる。
だが、それよりも大事なことがある。
「どっちかが間違った時は、残った一人が止めるしかないんだよ。ラッセルが取り返しがつかないことをする前に、フレッチャーが止めなきゃ」
もしエドワードが間違った時は、アルフォンスが殴ってでも止める。そのように、フレッチャーもまた動かなければならない。他人にやらせてはならない。弟である彼が、やらなければいけない。
「……エドワードは、いい弟をもったな」
「へへ、ありがとう」
穏やかに微笑んだリオンに、アルフォンスも照れたように笑う。
夜空を見上げ、リオンは再び口を開いた。
「……そろそろ侵入し始めてる頃か」
思い浮かぶのは、金色の少年と空色の少女。今現在この場にいない二人は、マグワール邸へと出掛けて行った。
「大丈夫かな…」
「心配ないだろ」
何たってあの二人は、鋼と氷の最強タッグなんだから。