「エド、君は若い。なんでも出来るだろう」
だが、自分たちはそうやり直しがきく年ではないのだ。新しい場所でやっていけるかも分からない。技術も残したい。
「じゃあ、ずっとこうしてれば?」
レマックが告げた言葉に返したのは、クライサだった。押し問答の繰り返しでいい加減飽々していたところだ。
「そうもいかなくて迷っているんだ。どのやり方も納得できないと…」
「納得できないのは、自分たちで選んだ道じゃないからでしょ?」
請われて渡す研究費が実績に繋がってるか、いつ倍になって返って来るか。結局はそれに縛られ、何も出来ない。
「君たちには分からないんだ」
これから最高の未来を得るだろうエドワードたちと、過去に最高の時間を得た彼らでは、素晴らしいと思う基準が違う。
クライサが、不機嫌そうに眉を寄せた。
「……そうかもな」
エドワードもまたイライラしたように、歩き出す。店の扉を開け、出て行く直前に皆を振り返った。
「でもオレ、他力本願な奴って大嫌いだからさ」
それだけ言って扉を閉めると、横を見てもう一言付け加える。
「……何も言わないお前も嫌いだ」
扉の横には、ラッセルが立っていた。
「……君に嫌われても痛くも痒くもない」
「へえ。んじゃ、ついでにオレだけじゃなく町の人にも嫌われてこいよ。研究費が足りないからくださいって言えばいい。法外な金額ふっかけてさ」
意地悪そうに笑ったエドワードに対し、ラッセルは僅かに辛そうな表情を見せた。
「……町のためなんだ」
「町のため、ねぇ?」
「お前がいると町の秩序が乱れる。早く出てってくれ」
「オレのせい?違うよ、お前のせいだろ」
心外だとばかりに言い返す。彼に言われて出ていくのは癪だ。自分たちはもう少しのんびり滞在させてもらう。そう付け加えると、ポン、とラッセルの肩を叩いてから歩き出した。
ラッセルが暫くその背を睨み付けていると
「痛くも痒くもない、ね」
「!!」
突然背後から声が聞こえてきた。驚き振り返れば、空色の少女が扉に寄りかかるように腕を組んで佇んでいる。
「あ…」
ラッセルの無意識に顔が強張り、紅潮する。