「なあ、エドとアルは見てきたんだろ?どうだった?『石』はあったのか?研究は進んでいるのか?」
誰かが、そう言った。一斉に視線の集中する先に、エドワードとアルフォンスがいる。
彼らは昨夜、マグワールの屋敷に忍び込んだのだ。エドワードはラッセルと戦闘を繰り広げ、アルフォンスとフレッチャーは手出しをせずにそれを見ていた。だが結局は追い返される形になってしまったのだ。
「えっと…その。ボクたち、結局追い返されたわけだし、なにも…」
アルフォンスは困り果てる。エドワードはゆっくり珈琲を啜っているだけだ。
だがアルフォンスはその時初めて、兄の視線が店の中ではないところに向けられているのに気付いた。窓の外に揺れる、黄金色。気付けばクライサの目もそちらを向いている。
「…あのさ、素朴な疑問なんだけど」
視線を店の中へ戻すと、クライサは口を開いた。店内の者たちの目が一斉に少女へと向く。
「賢者の石だの金の錬成だの…軍人の前で話していいの?そんなこと」
少女の言葉に、今度はその隣のリオンへと視線が集まった。そういえばそうだ。何故軍人の前でこんな内容の話を、全くの躊躇もせずにしてしまっていたのだろうか。
「……またお前は余計なこと言いやがるな」
リオンとしては、その発言は迷惑この上ない。元々上に報告する気も無かったのに、店内の者みなに敵意の込もった目で見られるなんて。
これ以上ゴタゴタするのはごめんだ。もちろんこのまま敵視されているのだって嫌だ。
(仕方ない…)
「…あー、俺はこいつに忘れ物を届けに来ただけだから…この町で見た物聞いたことを上に報告する気はない。仕事外のことはしたくないんでね。だから安心してよ」
エドワードを指差しそう伝えれば、町人たちは幾分か安心したように視線から力を抜いた。とりあえず敵と見られる心配はなくなったらしい。リオンは溜め息をつきながらクライサを睨んだ。
それはそれとして。
「…エドワード様に、研究の進み具合を聞いてみようか…」
「だが、大事な錬金術の研究成果を教えてくれるだろうか…」
皆は頭を抱える。騙し騙しやってきた全てのことに、決着をつける時期がきているのだ。