町の入口には何軒もの朽ちかけた家があり、窓枠や土台は地面と同じように土色に変わっていた。
それでも町の真ん中辺りまで進むと、活気が感じ取れるようになる。人々の話し声や、岩を叩く音。店には『オープン』の札がかかり、窓からは豪奢な金細工の商品が見られた。
(ふむ…とりあえずどっかの店に入って、話を聞くか…)
町の中心にある食事処へと入ると、店内には十個ほどのテーブルがあり、採掘で土にまみれた男たちが数人座って珈琲を飲んでいた。
「…わ……」
ふと壁に貼られた紙に目をやる。
豪奢に、そして緻密に描かれた金細工の平面図が何枚も貼られており、それらは店に来た旅行者にこの町の技術を知らしめるには充分なほど見事なものだった。繊細な模様のついた大きな器、短い足のついた小さなテーブル。黒いペンで描かれたそれらが本来は金色だと思うだけで目が眩みそうだ。
「金細工なんて贅沢品なだけかと思ってたけど…」
「芸術品でもあるだろう?」
まさに言おうとした言葉を当てられて、クライサは声の主へと目を向けた。
「注文、何にするかい?」
顎に髭をたくわえた、ひょろりと背の高い男。店の主人らしく、エプロン姿がさまになっている。
「あ、いや違うの。あたしはお客じゃなくて…」
「客じゃない?冷やかしかい?」
「あー、そうでもなくて…えと、人を探してるの。大きな鎧と金髪の男の子の二人組、この町に来てない?」
そう尋ねれば、店主だけでなく店にいた男たち皆が眉を寄せた。
(まさか…また何か問題起こしたの…?)
どうして大人しくしていられないのだろうか。
このような反応に慣れている少女は溜め息をつかずにいられなかった。
「ああ、あの二人か…全くとんでもない子どもたちだね」
やはり何かしらの事を起こしたらしい。
だが、店主が言うほど『とんでもない』わけではないのか、彼は苦笑していた。特に怒っているわけでもなさそうだ。
「マグワール様の屋敷に忍び込むとはね。随分と行動力のある悪ガキだよ」
「あはは…」
またそんな大層なことを。普通なら笑って許されるレベルではない。
「しかもエドワード様とアルフォンス様の名を名乗るとはね…」
「……は?」