「跳弾を利用しての長距離狙撃、それも地上から工場の六階を狙って、なんて期待出来るレベルの話じゃないでしょ」
クライサとロイが下に戻ると、一階の扉の前に全員が揃っていた。エドワード、アルフォンス、その腕に抱かれたアンシー、ハボック、ブレダ、そしてリオン。
「よく言うよ。テロリストの武器の中にスナイパーライフルがあった、って言ったらすぐに仕事決めてったくせに」
「でも実行すると思わなかった」
「それこそ、よく言う、だ。成功する確信がなければ、そもそも何も言わなかっただろう、君は」
「っていうかね、確信があろうがなかろうが、そもそもリオンがやったことは人間業じゃないんだからね!?けろっとしてんじゃないの!」
高レベル過ぎる精密射撃をこなしてみせた少年は、それでもやっぱり表情を変えない。平然と一般人面をしていやがる。
まぁ確かに、彼がそういったことを主張してくるタイプでないことはよく知っているが。
「しかし、そのためにやたらと氷を飛ばしていたとはね…君らしくないとは思ったが」
コルトに当たることがないとわかっていて、あんな全方位に氷を放つなんて行動をした意味が、まさかリオンの狙撃にあったとは。地上からでは見えない、六階部分の内側を反射させるために、クライサはあれだけの氷を錬成したのだ。
コルトが移動する度に氷製ナイフを放っていた理由はよくわかったが……それだけで内部の情報を把握しろと要求するクライサも、その要求に応えてみせたリオンも、あまりにも普通じゃなさすぎる。
「…やはり、君たちだけは何があっても敵に回したくないな」
深々とロイが溜め息をつく。揃って首を傾げたクライサとリオンの向こうで、双眼鏡を覗いていたブレダが振り返った。
「大佐〜、援軍が来ましたよ〜っ」
「やっと来たか」
「ふい〜、疲れたぁ」
ハボックが一服しようと煙草を口にくわえる。それをクライサは笑みを浮かべて眺め、リオンは後ろの扉へ目を向ける。
テロリストたちは怪我人を含め、みな建物内に集めてある。しかし五階から三階は完全に崩れていて(クライサとロイが五階の床を落としたためだ)、ゲイルの姿を見つけることは出来なかった。援軍が来れば、その崩れた辺りにも捜索に入れるのだが。
「後のことは援軍に任せて帰ろ帰ろ。お腹空いたし」
「帰っても後始末があると思うとなぁ…」
「あ、リオンはあたしたちに付き合ってもらうからね。大佐に許可はもらったから」
「へぇ、そりゃ有り難い」
長かった戦いは全て終わったのだ。
そう思って誰もが安心しきった、その時。
一同が背を向けていた、鉄の扉が倒れた。ドゴオオォォン、と轟音が響き渡り地を揺らす。
クライサたちが振り向いた時、崩れた瓦礫や机、木箱、壁などを頭上に掲げたゲイルが立っていた。