コルトが音のしたほうを見る暇もなく、また別の鉄筋が音を鳴らす。
その一瞬後、コルトの手から拳銃が弾かれた。

「ーーな、」

何が起こった。
それを理解出来ず、一瞬思考が真っ白に染まったのはコルトだけではない。
だがロイは、宙を舞った拳銃が床に落ちて音を立てる前に、半ば反射的に指を鳴らした。飛んだ火花が、空気中に舞う塵を伝ってコルトの眼前で燃え広がる。

「くわああああっ!!」

熱気が瞬間的に物凄い勢いで部屋を満たした。コルトは火の粒子が燃え尽きるまでの一瞬、炎の世界に取り残される。
一瞬の熱気にさらされたコルトは、大したやけどはしていないものの衝撃に倒れ、気を失っていた。

「残念だったね、コルトさん」

あの町でクライサたちに出会わなければ、もしかしたら一時くらいなら勝利の美酒を味わえたかもしれなかったのに。
しかし現実は、この様だ。伏しているのはコルトたちテロリストで、立っているのはクライサたち軍人。結局どうしたってコルトの計画は成功しなかったのだ。

「クライサ」

倒れたコルトに背を向けて、クライサは自身を呼んだロイに振り返る。

「……軍人とかテロリストとか、どうだっていい。あたしにはあたしの理由があって、軍を選んだだけなんだから」

「……ああ」

「たとえ軍人とテロリストに違いがなくたって、あたしのやることは変わらない」

「そうだな」

歩み寄ったロイが手を伸ばし、頬に触れられてクライサは顔を上げる。次いで優しく頭を撫でる手のひらと向けられた微笑みに、苦笑した。

「……しかし、さっきのは一体…」

頭を撫でていた手が離れ、ロイは屋外ギリギリに立つ鉄筋のそばまで歩いていった。そこは本来なら屋内外を隔てる壁がある筈だが、ほとんど崩れ落ちていて役目を果たしていない。クライサは離れた手のひらを名残惜しく思いながら、彼の後に続く。
コルトの拳銃は何かに弾き飛ばされたように見えた。一体何に?そしてその直前に、鉄筋が立てた二度の音は?
考え込むロイの横で、小さく笑った声がした。

「まったく、たいしたもんだよ」

不思議に思って傍らを見れば、クライサは床の端ギリギリに斜めに立った鉄筋に触れている。そして天井に近い部分を指差して、その指先を、今度は屋内で天井を支えている鉄筋の根元近くへ向けた。そこからまた空中を辿った指先は、瓦礫と瓦礫の間の、何もないところで動きを止める。
ーーいや。そこは、先ほどまでコルトが立っていた場所だ。

「まさか……」

クライサの指先が辿った軌道に、ロイは思い当たるものがあった。










「正直、本当にやると思わなかった」

終わったな。そう呟いて、覗き込んでいたスコープから顔を離したリオンは、車の脇でエドワードが漏らした言葉に目を向けた。ハンドルに掛けていた足を下ろし、倒した背もたれに預けていた体を起こす。

「姫のお達しだからな。やらなきゃやらないで構わないとは言ってたけど、絶対後で文句言われるから」

それも面倒だし、と淡々と続けながら、リオンは抱えていたライフルを助手席に置いた。









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