「どこで間違ったのか?そんなの最初っからに決まってるでしょ。こんな計画、成功するわけがない」
クライサはあっさりと否定してみせた。
「憎しみに囚われて、小さな子どもや人の心を利用してまで、こんな計画実行しようなんてホンット馬鹿馬鹿しい。まともな大人の行動とは思えないね」
「まともな大人、ね…」
コルトが振り返る。心底呆れたようなクライサの言葉に、ふん、と笑った。
「そんなもの、なれるわけがない。暴動制圧に巻き込まれて親を亡くした子どもが、両親の死をきっかけに、有望視されていたエリートコースから転落して地に落ちる様を知りたいか?」
なんだ、有りがちだな。クライサは無感動に内心呟く。
その子どもが誰なのか、聞かなくてもわかる。だがコルトが同情を求めていないのはわかっていたし、二人も同情するつもりなどなかった。
軍だって完璧じゃないとか、更正しろとか、そんな台詞は意味がない。復讐はコルトが自分で選んだ道なのだ。
「貴様の背景など知らん。私が知っているのは、貴様が犯罪を犯したということだけだ」
ロイが一歩前に出る。
「銃を下に置け。そして手を上げるんだ。貴様の計画はここで終わりだ」
コルトは微かに笑った。ロイの言い方はいかにも軍人らしいと。
「……だが、俺にも意地がある。ただで捕まるなんてプライドが許さないんでな」
言い終わるか否か、静かに立っていたコルトが銃を構え、引き金を引くと同時に傾いた柱の陰に隠れた。
今まで彫像のように動かなかっただけに、その速さにクライサとロイはついていけない。ロイの腕を銃弾が掠り、そちらに気をとられた一瞬に、今度はクライサの手の甲を銃弾が掠る。
「…んの…っ」
銃声の聞こえた場所に顔を向けた時、コルトは既に移動しており、違う場所から続けて銃声が聞こえた。二人のすぐ傍らで銃弾が跳ね、薬莢が落ちる音がした。
頭脳派だと思っていたコルトが予想以上に動くものだから、クライサとロイは戸惑った。天井からぶら下がるいくつもの鉄筋も視界を塞いで邪魔をする。
「……面倒くさい」
「大技は使うなよ」
両手を合わせようとしたクライサの肩をロイが掴んで止めた。なんで、と言わんばかりに不機嫌顔で見上げた先で、ロイは横にある鉄筋を叩く。
「この鉄筋、意図的に斜めになっているようだ」
ぼろぼろの天井へ向けられた視線を追って、クライサは納得した。どうやらこの斜めになった鉄筋によって支えられているらしい。
「気をつけたほうがいいぞ!鉄筋がなくなると、この建物は崩れることになっている」
遠くから聞こえてきたコルトの声は、少しだけ楽しそうな笑いを含んでいる。
それならば、とクライサは改めて手のひらを合わせた。