先ほどまで廃工場に響き渡っていた、つんざくような銃声は止み、辺りは異様なまでの静けさに包まれていた。
エドワードとクライサの二人に合流した後、首謀者の捕獲をクライサとロイに任せたリオンたちは一階に下り、その際建物内に残っていたテロリストたちを(主にエドワードとアルフォンスが)全員のしてみせたのだ。
その後、無事に救出したアンシーは、今はアルフォンスに抱き上げられて笑っている。その隣で弟と労い合っているエドワードの表情も安堵に満ちていて、リオンは微笑みを浮かべた。
(……あとは、大佐と姫)
顎を上げる。建物を出てすぐのところに停めた車。その運転席に腰を下ろしたリオンが見上げれば、廃工場の六階はほぼ真上になってしまい、その階には壁が無いにも関わらず中の様子はわからない。だから首謀者がそこにいることも、クライサたちがそこに着いたとも確認出来なかった。
「リオン」
名を呼ばれて顔を戻す。車の脇まで歩み寄ってきたエドワードが、先のリオンと同じように建物を見上げた。
「クライサたち、コルトさんに会った頃かな」
「……かもな」
先ほど、上の階から何かが崩れ落ちるような盛大な音がした。今ハボックとブレダが確認に行っているが、きっとクライサの仕業だろう。首謀者を捕まえたならすぐに戻ってくるだろうが、その様子が未だないところを見ると、先の音はゲイルとやり合った結果なのかもしれない。
「心配か?」
「いや、全然」
笑みさえ浮かべて即答したエドワードに、だろうな、と頷く。あの兄妹を相手にすれば、いかな凶悪テロリストでも降伏せざるを得ないだろう。絶対に敵に回したくない二人組だ。
「そろそろ、クライサが腹空いたって喚き出す頃だな、って思ってさ」
「……なるほどな。じゃ、さっさと終わらせないとうるさくて仕方なくなる」
深く倒した座席には凭れないまま、リオンは腕の中の『それ』を抱え直した。
「俺も、俺の仕事をしなきゃな」
最終章
六階には、ほとんど壁がなく、空にぐるりと囲まれるかのように床だけが浮かんでいた。その中で、鉄筋や瓦礫があちこちで斜めになり、視界を妨げている。鉄筋の中には朽ちたものも見当たった。
コルトは、その向こうに立っていた。
二人の気配は感じているだろうが、振り返らない。
「……一連のテロ事件、および誘拐事件の重要参考人として連行する。大人しく従ってもらおうか」
「素直に従っといたほうがいいよ。アンタの計画は失敗した。諦めな」
「……失敗。そうだな」
コルトの肩が揺れた。笑っている。
「くくく、確かに失敗だ。どこでどう間違ったのか……計画は完璧だったのにな」