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名付けるならば『理(ことわり)の間』。
真理の扉の前とほとんど同じ感覚がするが、そことは反対に真っ暗な空間が広がり、扉も見当たらない。
『理』と名乗った男は、少年の顔で淡々と告げた。
「お前の『時間』はここまでだ」
「……なに?」
今度は20歳位の青年の姿で。
「この世界でお前に与えられた『時間』は、お前が倒れたあの場で終わったんだよ。……つまり」
次いで、30代位の男性の姿。
「お前は、あそこで死ぬ『運命』だったってことだ」
26.
over the dead end
行き止まりの先
彼が言うには、今ここにいるクライサは魂だけの存在で、肉体は今もあの血溜まりに沈んでいるのだそうだ。
世界の時間、とやらから切り離されてこの場にいるため、ここで過ごす時間は肉体に影響しないのだと。
「ふぅん。つまり、魂であるあたしがこの場を離れて肉体に戻れば、それが肉体の死に直結することになると」
「大雑把に言えばそんなところだ。無理に肉体に戻ったとして、行動を起こす『時間』が既にお前には残されていない」
「……」
表情を変えず、やはり淡々と告げていく理は、しかし己を見つめるクライサの顔を正面から見て、微かに口端を上げた。
紛れもない『死』を宣告されているというのに、彼女の目に絶望は映っていないのだ。
信じている。
自分は必ず生きて戻れるのだと、信じきっている。
「……お前には、ふたつだけ選択肢が残されてる」
理は顔の前に左手を持ち上げ、二本の指を立てた。
「ひとつ。このまま死んで、天国へ」
「あたし、天国行けるの?」
「さぁな。日頃の行い次第じゃないか」
「うわ、自信ないや」
「そして、もうひとつは」
あくまで静かに、彼は口を開く。
「死ぬまで、地獄を生きる」
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