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「リミスク少佐、ピアスは外しておいたほうがいいですよ」
「へ、なんで?」
バズクールへ向かう車の中。
運転席に座る軍人の言葉に、クライサは後部座席で首を傾げた。
「それ、金属製でしょう?外しておかないと耳が凍傷になってしまうかもしれませんよ」
「あーそっか」
左耳にした二つのピアスに触れ、俯いたクライサを、隣に座るキンブリーが不思議そうに見下ろす。
彼がそのまま見つめていると、彼女は被っていた帽子を脱いで膝に置き、両手を合わせた。
短い錬成反応の後、彼女が手にしていたのは耳当てつきの帽子だった。
それを被り直し、何くわぬ顔で前を見る。
「……リミスク少佐?」
「これなら問題無いでしょ。長時間吹雪の中歩いたりするわけでもないんだし」
「まあ…構いませんけど…」
ピアスを外す気は無い、といった様子で腕を組む彼女を見下ろし、キンブリーはふむ、と呟いた。
それに反応したクライサが、彼へと視線を上げる。
「そのピアスはどなたかからのプレゼントですか?」
「……これは呪いのアイテムでね、一度装備したら最後、死ぬまで外れることはないの。無理に外そうとすると、更なる呪いが降りかかって…」
「そうですか、とても大切な方からのプレゼントなんですね。頑として外そうとしなかったので、そうではないかと思ってましたよ」
「あたしの話聞いてた?」
20.
preparation and regret
覚悟の重さ、血の後悔
「今日の午前、スカーらしき奴がここに入って行くのが目撃されている」
バズクール。
元は鉱山の町で、現在人はいないらしい。
様々な建物が埋め尽くすように町いっぱいに建っており、人間一人を捜すのは困難そうだ。
エルリック兄弟とクライサは別々にスカー捜索に取りかかることになり、それぞれ一人ずつ中央軍の男(キンブリーの取り巻きだ。見張り役なのだろう)を付けられた。
全く違う場所に向かわせるあたり、徹底していると言えるだろう。
(ったくもー、面倒だなぁ)
ここは建物が多い上に、土地自体も広いのだ。
これでは、見張りをまいてもエドワードたちと合流するのは難しいかもしれない。
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