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「ロゼの言ってた教主の部屋ってのはこれか?」

エドワードとアルフォンスは、重厚そうな両開きの扉の前に立っていた。そこにロゼの姿は無い。彼らが動くより早く、扉がギッ、と音を立て二人を迎え入れるように開かれた。

「へっ、『いらっしゃい』だとさ」

部屋の中に足を踏み入れると、背後で扉が閉まる。暗い室内、その奥に位置する階段の上に、コーネロはいた。

「神聖なる我が教会へようこそ。教義を受けに来たのかね?」

「ああ、是非とも教えてほしいもんだ。せこい錬金術で信者をだます方法とかね!」

コーネロは相変わらずの笑みを浮かべて兄弟を見下ろしている。エドワードもまた、強気な笑みで返してみせた。

「私の『奇跡の業』を錬金術と一緒にされては困るね。一度見てもらえばわかるが……」

「見せてもらったよ」

コーネロの錬金術には、腑におちない点がある。どういうわけか、法則を無視した錬成が成されているのだ。
そこで思ったのだが。

「『賢者の石』、使ってんだろ?」

エドワードの言葉に、コーネロの指がピクリと動く。左手の薬指。そこに通された指輪の、赤い石。

「……ご名答!伝説の中だけの代物とさえよばれる幻の術法増幅器……我々錬金術師がこれを使えば、僅かな代価で莫大な錬成を行える!」

その石を使い、コーネロは何を望む?金か?栄誉か?

「金ではないのだよ」

確かに金は欲しい。だがそれは信者からの寄付という形で、黙っていてもコーネロの懐へと入ってくる。
望むのはむしろ、信者の方だ。

「私のためなら喜んで命も捨てようという柔順な信者こそが必要だ。素晴らしいぞぉ!!死をも恐れぬ最強の軍団だ!!」

コーネロは上機嫌のまま続ける。準備は着々と進んでいる。あと数年もすれば、その軍団と共にこの国を切り取りにかかるぞ、と。
無遠慮な笑い声を上げるコーネロだったが

「そんなことはどーでもいい」

「どうッ!!?」

彼の野望を『そんなこと』扱いしたエドワードに、その両目を見開いた。国家錬金術師であるエドワードは軍側の人間の筈だ。まさか、どうでもいい、などと言われるとは思わなかったのだろう。

「単刀直入に言う!賢者の石をよこしな!」

自分は国や軍に関心は無い。賢者の石さえ渡してもらえれば、教主のペテンについては黙っていてやる、と交換条件を出すが、コーネロが素直にそれを飲む筈がない。
エドワードたちはこの街の人間ではないのだ。たとえ本当のことを言いふらしたとしても、教主を信じきっている街人たちが彼らを信じることは無いだろう。

「そうさ!馬鹿信者どもはこの私に騙されきっておるのだからなぁ!!」

一際大きな笑い声を上げるコーネロに、笑みを浮かべたエドワードが両手を叩いた。彼を馬鹿にするような口調と拍手。教主は相変わらず笑っている。

「いやー、さすが教主様!いい話聴かせてもらったわ」

確かに、余所者である彼らの言葉に耳を貸す者はいないかもしれない。
だが

「彼女の言葉にはどうだろうね」

アルフォンスが床に膝をつき、胴部分の金具に手をかける。そして胸から腹にかけての鎧を外すと、中にはロゼの姿があった。

「!?ロゼ!?いったい何がどういう……」

コーネロの顔色が変わる。当然だ。アルフォンスの鎧の中に彼の身体は無く、代わりに、見慣れた人物が姿を現したのだから。
最も教主を信じていたロゼに、信者たちを騙していた事実を知られてしまったのだから。

「教主様!!今おっしゃったことは本当ですか!?私たちを騙していらっしゃったのですか!?奇跡の業は……神の力はあの人を甦らせてはくれないのですか!?」

アルフォンスの鎧の中から飛び出し、ロゼは声を張り上げる。その目には涙が溜まっており、必死な様子が見てとれた。コーネロは苦い顔をしていたが、すぐに笑みを浮かべる。

「ふ……確かに神の代理人というのは嘘だ……だがな」

今まで数多の錬金術師が挑み、失敗してきた生体の錬成も、賢者の石があれば成功するかもしれない。

「この石があれば、お前の恋人を甦らせることも可能かもしれんぞ!!」

ロゼの体が震え、心が揺れ動く。彼女を招くコーネロの手、彼女を引き止める兄弟の声。
迷いに迷い抜いたロゼは、ーーその足を、踏み出した。

「二人とも、ごめんなさい」

それでも私には、これにすがるしかない。
振り向いた彼女の表情に、エドワードは溜め息をつかずにはいられなかった。








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