今日は特別な日だった。
クライサの誕生日。
この日のためにカノンやカナタでさえ、司令部に立ち寄ったというのに。
プレゼントを渡すタイミングを外した俺は芝生の上で唸っていた。
カノンの双子の弟、カナタを道ずれにして。
「エドって時々、すごい女々しいな」
「う、ううるせェーー!!」
相談してみると爽快な笑顔で毒を吐かれた。
まあ、彼がカノンと話している時に無理やり引っ張ってきたのだから少しの嫌味は我慢しよう。
「でもまあ、そんなエドにいい知らせだ」
にやりと意味深に笑ったカナタは、やはりカノンに似ている。
そういう笑みは何かある時だということを本能が告げていた。
「クライサ、誕生日おめでとう!」
仕事も終わり月が輝く夜。
クライサがドアを開けた瞬間、クラッカーの音が鳴り響く。
そんな中、満面の笑みでカノンはプレゼントを差し出した。
「ありがとうカノン!」
驚いたようだったが、クライサはすぐに笑顔で受け取った。
「これか……」
「そうゆうこと」
感心したように呟く俺に軽い返事が返ってきた。
カナタが言ってたいい知らせ。
それはクライサに内緒でサプライズパーティーをすること。
つまりカナタはパーティーの最中に渡せと言いたいのだろう。
そう思ったがカナタは否定した。
「違うって。クライサは人気者だろ。今行ってもその他大勢と一緒になるだろ?」
「だからオレに任せなさいっ!」
いつのまにかカノンが来て、同じ顔で笑う。
口調はともかく、彼女もれっきとした女なので頼りにしてもいいだろう。
それにしてもカノンにバレてるなんてカナタだけを連れ出した意味がなかった。
そう言うと、エドはわかりやすいんだよ、と言われた。
この双子にはかなわない。
改めて思った。
「あー、エド!ずっとここにいたの?」
クライサは俺を見つけると、開口一番そう言った。
今は俺と彼女、二人きりである。
カノンとカナタに感謝しなくては。
「ちょっとな……」
「ふーん?まあ、いいけどね」
屋上に二人きり。
それを意識すると中々言い出せない。
星空の下にいる彼女がいつもと違って見えて、心臓が五月蝿い。
ふいにカノンの言葉が頭をよぎる。
凄惨な誕生日を送り続ける彼女は言った。
どんな誕生日でも大切な人に祝ってもらえたら、それだけで幸せなんだと。
俺がクライサにどう思われているかは分からないが、大事な友人くらいには思ってもらえてはいるはず…。
「クライサ」
「ん?」
意を決してポケットから四角い箱を取り出した。
「誕生日おめでとう」
彼女は黙ってそれを受け取り、綺麗に微笑んだ。
「ありがとう」
その笑顔のためならば
(たまには悩むのもいいかもしれない)
「どう?」
「上手くいったみたいだぞ」
「大事な思い出には笑顔が多いほうがいいよね」
「クライサは笑ってる方が可愛いしな」
「カノンにカナタ?そんなところで何をしている?」
「「あ……(やべっ)」」
影から笑う双子を見つけて大佐が二人を見つけるまで。
他の奴らが嗅ぎ付けて大騒ぎになるまで。
それまでは君と穏やかな時間を。