「上級生相手でも構わず喧嘩してるって話、マジだったんだな」

「その辺のチンピラと一緒にしないでよ。あたしの喧嘩はいつも勧善懲悪なんだから」

「へー」

「それは意外だな」

「ちょっ、それヒドいよクロ先生!」

「で、さっきの二人はどんな勧善懲悪で叩きのめしたんだ?」

「それが全く思い出せなくてねー。人の傘パクろうとしてたとか、購買の列に割り込んできたとか、バスケのボールとか部活の備品勝手に使って返さないとか、嫌がる女子にちょっかい出してたとか、大体その辺だろうけど。っていうか、男子が寄ってたかって女子相手に喧嘩してれば、どうしたって世間はこっちの味方するでしょ。基本、あたしの喧嘩って一対多数だし」

「意外と小賢しいな、お前」

「褒め言葉として受け取っとくよ」

「それより、その年で多勢相手に喧嘩慣れしてるってどうだよ」

「仕方ないよ。ちっちゃい頃からエドと一緒にガキ大将とか相手にしてたんだもん」

「あいつも同類か」

「無駄に血の気多いからな、余計な喧嘩買ったりしてたんじゃないか?」

「おっとクロ先生、まさにその通りだよ。おかげでかなり鍛えられました」

「……ところで、“姫”って何、クライサ?」

繰り広げられる三人の会話が一拍止まった、ナイスなタイミングで放り込まれたひとつの疑問に、リオンとクロフォードは発信元に顔を向けた。
化学準備室。レイが届けに来た荷物をリオンがかわりにクロフォードに渡し、その流れのまま先程の廊下での出来事について話していたのだ。
ちぃっ、覚えてたか。クライサは舌を打つ。もちろん、それは隣で疑問を口にした張本人であるレイにではなく、彼女の前で“姫”だの“白雪姫”だの呼んでくれたリオンやあの上級生二人組に向けられたものだ。

「なんだ、レイに話してなかったのか?“白雪姫”」

「クロ先生までやめてよ…」

クロフォードまでその名で呼ぶものだから、レイはますます首を捻る。当然だ。“姫”はまだしも、“白雪姫”などと呼ばれる所以がクライサには見当たらない。彼女の嫌がりようを見れば、それが敬意を持って呼ばれているものではなさそうだ、ということぐらいはわかるのだが。

「クライサ」

「……」

もう一度問うかわりに名を呼ぶ。それでもなおクライサが渋っていると、戸を立てられないリオンとクロフォードの口が、彼女の様子もお構いなしに事情を語り出した。

「先月の文化祭で、こいつのクラス、劇やったんだよ」

「白雪姫を、な」

「ちよっ、二人とも!」

黙れ!と喚くクライサの頭に、リオンとクロフォードは同時に手を置いた。押さえ込むような力の加わったそれに、無理矢理俯かされながらクライサはむぎゅうと鳴く。

「レイの学校も同じ日程だったな、文化祭」

「うん。だからお互い見に来れなかったんだよね。……そういえばクライサ、出し物のこと話したがらなかったね」

「……う」

二日間ある文化祭が両日被ってしまっていて、そのうえクラスの出し物があるから抜けられない、お互い遊びに行けなくて残念だ。以前そんな話をしていた時、クライサのクラスでは何をするのか、尋ねても教えてくれなかった。それとなくはぐらかす様子に、話したくない理由でもあるのだろうと納得することにしたのだが、そうか、劇をやっていたのか。
で、“白雪姫”の劇をして、“白雪姫”と呼ばれるからには、彼女は主役を演じていたのだろう。性格柄目立つのが苦手だとか今更言わないだろうに、何をそんなに嫌がっているのだろうか?

「なんだったか、タイトル」

「“バトルオブ白雪姫、立ち塞がる七人の小人〜熱闘編〜”」

何だ、そのゴキゲンなタイトルは。
レイの冷めた目に気付いているのかいないのか、手のひらの下で暴れる頭を更に押さえつけながら、リオンは続ける。

「母であり師匠である女王に『天下一の強さを手に入れて来い』と獅子の子よろしく城を追い出され、深い森を突き進む白雪姫が、次々に立ち塞がる七人の小人を倒していくっていう常識外れの活劇な」

ある意味クライサらしいけど、とは思っても言わない。

「まさか童話モチーフの劇で、あんなレベルの殺陣みたいなの見ることになるとは思わなかったよ」

「……シナリオ担当はじめ、うちのクラスのみんなが馬鹿なんだよ」

「の、わりには楽しそうだったじゃないか」

「な。悪ノリ集団の立派な一員だった」

「全校生徒に知られることになるならやらなかったよ!」

そりゃもうとんでもない劇だったようだ。だが舞台側も観客側も高校生となれば、めちゃくちゃであればあるほど盛り上がるに違いない。そして評判はあれよあれよという間に広まっていき、生徒たちの間で“白雪姫”が定着してしまったということか。

「いいじゃないか。大盛況だったようだし」

「盛り上がってた盛り上がってた。三人目の小人戦とか凄かったよな」

「ああ、侍小人ね。模造刀振り回すのは楽しかったかなぁ」

「五人目の小人はバスケ部のエースだったな」

「ああ、あいつ。昇竜拳やるやつ生で見たの初めてだったな」

「空手小人か。ぶっちゃけ何発か掠ってたんだよね、あいつのパンチ速くて」

「……へぇ」

「全部アドリブだからね、バトルパートは」

「お前らのクラス馬鹿だな」

「馬鹿でしょ」

「だが、その分みんな楽しんでいたんだ。良かったじゃないか」

「うん……でも、おかげであの劇の登場人物、みんなあだ名呼びされてるんだよね…」

「たとえば?」

「“侍”“空手”“忍者”“メカ小人”…一人目の小人なんてひどいよ、“瞬殺”って呼ばれてんだから」

「それは君が瞬殺したのが悪いんだろ」

「お前が背負い投げした小人は?確か六人目の」

「……“投げられ”」

「そりゃひでぇ」

「昔の刑事ドラマみたいなネーミングだな」

レイは黙って聞いていたが、とりあえず結論を出した。聞く限り、白雪姫じゃない。……いや、タイトルを聞いた時点で予測出来たことだが、どこにも白雪姫の要素が見当たらない。魔法の鏡は、毒りんごは、王子様はどこへ行った?そもそも着地点はどこだ。

「あ、そうだ!副会長!アンタのクラス、男女逆転執事メイド喫茶やってるっていうから行ったのに、なんでアンタいなかったの!?」

「来んなよ」

「行くよ!大笑いしたいもん!」

「……そんなことしてたんだ。うちの学校でも、似たようなことしてるクラスあったけど」

「どこの学生も、考えることは大体同じだな」

リオンに噛みつき始めたクライサと、それに眉を顰めるリオンを眺めつつ呟けば、脇に寄ってきたクロフォードが腕組みしながら楽しげに言った。傍観者二人、じゃれあう二人を眺める。

「俺はクラスの出し物には参加してないんだよ。別の仕事が忙しいから」

「はぁ!?文化祭って言ったらクラスの出し物でしょうが!部活やってるわけでもないくせに、他に何の仕事が忙しいって言うのさ副会長!」

「生徒会だよ馬鹿野郎。何の副会長だと思ってんだ。こちとら文化祭前も当日も後も色々と忙しいんだよ、敬え一般生徒」

「っなんでそう、いちいちムカつく言い方するかな!」

「どうせ普通に言ってもムカつかれんだから、より腹立たせる言い方したほうが楽しいだろ、俺が」

「性悪!!」

仲良くなったなぁ。本人たちが聞けば、片や全力で、片やバッサリと否定しそうなので、心中に留めておくことにしたレイとクロフォードだった。





つまり白雪じゃなくてもよかった
【H24/08/07】




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