「…………ねぇ」
「どうしたの、クライサ」
色とりどりの光に彩られた並木道のど真ん中で、人通りがさして多くないことを確認してからクライサが足を止める。リオンは彼女の声に振り返り、その隣で同じく立ち止まったレイが首を傾げた。促しに応じて問いを口にする。
「何してるの?」
「え、何って……」
イルミネーションを見に来たんでしょ?
先と反対側に首を倒して不思議そうにしているレイに、普段より幼く見える仕草が可愛らしいと内心悶えながら、クライサは既視感に軽く目眩をおぼえた。
とある事柄にクライサは疑問というか不満を抱いているのだが、その対象たる二人が全くの無自覚。きょとんとした顔を二人して向けてくるものだから、いっそ流してしまったほうが楽なのかもとも思ったが、いやしかし、ここは譲れない。
「だから、なんでコイツがレイと手を繋いでんだって言ってるの!!」
「「手が冷えるから」」
「だーもーこの天然ども!!」
お前が犯人だ!ばりに鋭く指を突きつけたものの、二人してさらりと答えられて頭を抱えて喚いた。ダメだ、なんだこの人たち。
「クロ先生もなんとか言ってよ」
「ん?」
「ああダメだ、思いっきり楽しんでるよこの人!」
いつまでも立ち止まっていても邪魔だろう、と歩き出したリオンとレイの背(の主に片方)を恨みがましく見送って、仲良しの化学教師に促されてまた歩みを再開する。
相変わらず二人の手はしっかりと繋がれており、そのあまりの自然さにクライサは胃が痛くなった。
「……剣道部入ろうかな…」
「どうした?いつにも増して脈絡が無いな」
「だって剣道部に入れば、普段から竹刀持ち歩いててもおかしくないでしょ」
「ああ、おかしくないな」
「止めろよ教師」
教え子が凶器持ち歩こうとしてんぞ、とリオンが眇めた目でこちらを見ていた。聞こえてたらしい。
「クライサ」
「うん?どうしたの、レイ」
二人の少しばかり後をクロフォードと並んで歩いていたクライサは、親友に呼ばれて小さく駆ける。そして伸ばされた右手に、目を瞬き、数秒遅れて意味を理解した。
「クライサ、今の気持ちはどうだ?」
「…………嬉しいのと悔しいのが七三」
だろうな、と小さく笑う気配が背後でする。わざわざ振り返ることはせず、伸ばされた手をとった。
左手にじんわり伝わる体温。こっそりと覗き見れば、大好きな人の横顔と、その向こうには気にくわない副会長の姿。……大好きなレイを独り占め出来ない事実は悔しくてたまらないが、左手を包むあたたかさに、今日だけは許してやることにした。
【H24/02/22】