他校に通う親友と、ちょうど試験期間が同じだった。ならば試験明けにパーッと遊びに行こうか、と放課後に駅前で待ち合わせをすることにしてから一週間。

親友と遊ぶことだけを励みに試験期間を乗り切ったクライサは、いつの間にやら任されていた委員会の仕事をやっつけ気味に済ませてから、駅前までの道を走った。
この分では、自分よりもあの野郎のほうが早く着いているかもしれない。
何故か一緒に遊ぶことになっていた副会長の姿を思い出し、走りながら舌打ちした(本当はその約束の中にエドワードも含まれているのだが、今のクライサにそんなことを考える余裕は無い)。

まだ暦の上では秋の筈なのに、今日は一段と冷え込む。先日の大雨の時の寒さを引きずっているようだ。
家を出る時に姉に持たされたマフラーをしっかり巻いても、やはりミニスカートから出た足はそりゃ寒い。とは言っても、走っているうちにいくらか体も温まってきたが。

事前にメールで伝えていた時間の10分前になって、漸く駅前の時計台が見えてきた。
こちらの到着を待っている親友(と、お邪魔虫)の姿を探しつつ減速する。

「…………」

二人の姿はすぐに見つかった。
……見つかった、の、だが。

「あ、クライサ。お疲れ」

「おっせぇ」

時計台前のベンチに腰掛けたまま、目の前に立ったクライサを微笑みで迎えたのはレイだ。その隣で不機嫌そうに顔を顰めているのは副会長殿ことリオン。エドワードはまだ到着していないらしい。うん、そこまではいい。

「……何、やってんの?」

「?何って」

別に何も。彼らを見つけて立ち止まった格好のまま半ば呆然と言うクライサに、二人は顔を見合わせる。さもこちらがおかしいといった様子だ。とりあえず質問を変えることにする。

「レイ、それ何?」

「それ?……マフラーだね」

クライサが指差すと、レイはその先にあるものーー要するに彼女の首に巻かれたマフラーに左手を触れた。真っ白のそれは、昨年クライサと色違いで買ったものだ。
それが何?と不思議そうな顔を向けられて、クライサはがっくりと肩を落とした。しかし視線を親友の隣へと移すと途端に眼光を鋭くし、ずびしっと彼に人差し指を突きつける。

「だから、なんでこいつがレイのマフラーをしてるんだって言ってんの!!」

きょとん。一番言いたかったことを発言出来たとすっきりする余裕も無く、前にいる二人が目を丸くする。
つまり、レイは今のクライサ同様マフラーをしているのだが、それは同時にリオンの首も暖めているのだ。つまりつまり、一つのマフラーを二人で巻いているということ。当然二人の距離は近くなり、密着した状態とも言える。

「や、だってすごく寒そうにしてたから」

ああ、確かに寒そうだけど。レイが示す先、ブレザーの上から冬物のコートを着込んだリオンを半目で眺める。どうやら彼は寒さに滅法弱いらしい。どうでもいいが。
……それにしても。

「(ほんと、タチ悪い…)」

一見ラブラブな恋人だが、実際は二人は完全な無意識下でこんな行動をとっているだけの友達同士だ。ああまったく、激しく対抗する自分が逆にイタイ。

「クライサ?」

「なんだよ」

これ見よがしに大きな溜め息をつくと、不思議そうな問いがかけられる。クライサはそれには何も返さず、後日あの化学教師に愚痴を聞いてもらうことにしてその場を乗り切る努力を始めた。





【H22/01/12】



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