随分面白おかしい友達がいるんだな。見てて飽きなさそうだし、大事にしてやれよ。
人の友達を珍獣扱いだ。
液晶画面に浮かぶ短い文章に苦笑して、こちらに向けられた背に視線を投げた。
「クライサ」
名を呼んでも反応は無し。
格子のような手摺の間から出した両足を垂らし、橙に染まった空を見つめる背中からわかるのは、すっかり臍を曲げてしまったらしいこと。
クライサは何か嫌なことや我慢ならないことがあった時、必ずここに来る。
廃墟に近い、立ち入り禁止の三階立てビルの屋上。周囲を更に高いビルで囲まれた場所に建てられてはいるが、建物と建物の間から覗く夕日が窓から窓に反射して生まれる鮮やかな光を、一時の景色として見られるのはこの場所だけなのだ。
「クライサ、帰ろう」
彼女がどうして不機嫌になっているのかは、既に知っている。
大切な友人が他の人間にとられてしまうのではないか。それを不安に思い、周囲に迷惑をかけると知っていながら思うままに行動してしまう、自分に腹を立てているのだ。
「今日はうちにおいで。一緒にご飯食べよう」
だから、今必要なのは、慰めの類いではない。いつも通りの態度と言葉。
「何がいい?あたしはビーフシチューにでもしようかと思ってるんだけど」
「……クリームシチューがいい」
少しばつが悪そうな顔をして振り返った友に、いつもの微笑みを見せてやる。
距離を取ったまま手を差しのべれば、一瞬泣きそうな表情をして、ゆっくりと立ち上がった。
そのままのろのろと歩み寄ってきたクライサが手をとり、レイが柔らかく握り返して腕を引く。
一緒に歩き出した顔を窺うと、いつも通りの明るく元気な彼女に戻っていた。
「帰りに買い物していこうか。付き合ってくれるよね?」
「もちろん!ついでにお菓子も買ってこうよ。明日学校休みだし、泊まりたい」
「いいよ。また遅くまで語り合おうか」
ほら、結局は君に甘い
【H21/02/19】