今日のお昼は購買にしようか学食にしようか、悩みながら歩いていた廊下で一人の男子生徒とすれ違った。
いや、昼休みになったばかりだし普通教室前の廊下だしで、他にも何人もいた筈だが、意識したのがその彼だけだったのだ。

茶色の短髪で同色の眼。
そこそこ整った顔立ちではあるが、特別目を引く容姿でもない。
別に友人だとか、もちろん一目惚れしたとかでもなく、ただ気になった。
第六感的なものでもなさそうだし、強いて言うなら、どこかで見かけたような会ったような…………ああ!!

「多分それ、リオンだと思うぞ」

体育教師兼剣道部顧問のリオ・エックスフィートの口から出た名前に、クライサは首を傾げた。

「誰?」

「リオン・アサヌマ。生徒会副会長……っていうかよく全校集会やらで進行やってるだろ。生徒会役員の顔くらい覚えとけよ」

ふーん、と気のない返事をしつつ、先程購買で勝ち取ったばかりの焼きそばパンを口いっぱいに頬張る。
呆れ顔のリオの隣で、若い女性教員が小さく笑っているのがわかったが、特に気にしないことにした。

クライサは先生方とも仲が良く、別に同級生に友達がいないわけではないのだが、時々大人に混じって昼食をとる。
その中でも特に親しくしているのがこの二人で、彼らとは家のことや友達のことでも話せてしまう。レイのことものろけられる、学校内では数少ない存在だ。

「それで、クライサはその友達と副会長君が仲良くしているのが面白くないんだね?」

「恋人に浮気されたみたいな顔すんなよ。大袈裟だな」

「うるさーい。レイは恋人より大切な人なの!恋人すらいないリオ先生にはわからないんだよ」

「うっせ!」

二人の仲に進展があるようなら、闇討ちでもして副会長とやらを潰すか。
いやいや、むしろ先手必勝?
物騒なことを考えつつ最後の一口を飲み込んで、ペットボトルを傾ける。中身を半分ほど残して口を離すと、タイミングをはかったように女性教員が言った。

「僕は気にしないのが一番だと思うよ。クライサが彼女を大切だと思う気持ちを持っている限り、相手も応えてくれる筈だから」

「…っレノ先生いいこと言う!アメちゃんあげちゃう!」

「ありがとう」

「教師の前で堂々と菓子出すなよ」

「いいじゃん別に、昨日クロ先生にもあげたし。リオ先生もいる?」

「敢えて聞くが何味だ?」

「いちごミルク」

「俺、甘い物嫌いだって知ってるよな?」





杞憂で済めばいいんだけど







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