「最近妙に機嫌がいいな。何かあったのか?」

化学室に隣接した準備室と担当教員室を兼ねた部屋で、金髪の男性教員はマグカップに湯を注ぎながら楽しげに言った。
視線を向けることはしないが、問いの対象は室内のもう一人の存在、半年前からここに入り浸るようになった少年だ。

いや、別に?
そう返した少年は教師の自席を陣取ったまま、机上に置いた右腕の上に顎を乗せるようにして携帯の画面を眺めている。
教師がインスタントコーヒーを啜りながらそちらに視線を送っても、やはり目を合わせようとはしなかった。

「新しい友達でもできたか?」

「別にって言ってるだろ」

「言い返してくるってことは、当たりなんだな」

顔を上げた彼にニヤリと笑って見せると、些か不機嫌そうな表情で携帯を机上に放った。
基本的に冷静な少年が意外とわかりやすい性格をしているというのは、初めて会った時から二月後に知ったことだ。

「どんなやつだ?」

「……たまたま知り合った、同年代の女子。ちょっと話が合ったってだけだよ」

「君と話が合うなんて、珍しい子もいたものだな」

「どういう意味だよ」

ジト目で見られても、教師は笑みを浮かべたままだ。少年は彼には敵わないことを知っているので、短い溜め息をつくと机に置いた両腕に顔を埋める。
時折遠くのほうから不特定多数の声が聞こえてくるが、比較的静かなこの部屋は睡眠をとるのになかなか快適だ。

「そろそろ三限が終わる。今寝るのはお勧めしないよ」

「そ。じゃあ終わる前に帰る」

「今日の会議もサボる気か、副会長君」

「体調不良で早退ってことでお願いしますよ、クロフォードせんせ」

漸く席を明け渡し、床に置いていた鞄を拾い上げて肩に掛けた少年を、教師である筈の彼は引き止めようともしない。
少年がドアノブに手をかけたところで、ポケットに突っ込んでいた左手を出し、指先で遊んでいたものを放り投げた。
振り返った彼は片手でそれを受け取って、手の中の包みを確認すると途端に呆れ顔になる。

「飴玉なんか常備してんのかよ」

「貰い物だよ。二つあるから、お裾分けだ」

「あっそ。貰っとく」

苦笑いをした少年は、ピンク色の包みをブレザーの胸ポケットに突っ込むと、今度こそ部屋を後にした。

授業終了を知らせるチャイムが鳴ったのは、それから五分後のことだった。





他言無用の常連客







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