ああ、降りだした。
灰色の空から落ちてきたものが頬に当たるのを感じて、レイは足を速めた。
屋根の無いホームでは、彼女と同じようにたった今電車から降りたばかりの者たちが、今朝の予報が外れただの傘を持っていないだのと騒いでいる。
天気予報士に恨み言を呟いている男の横を通り抜け、レイは屋内に足を踏み入れた。
改札を抜けると目的地に一番近い出口に向かい、屋根の下ギリギリの場所で空を見上げる。雲に覆われたそれは暗さを増し、雨脚は更に強くなっていた。
待ち合わせの時間まで30分。
相手は10分前には着くように出ているだろうから、出来れば20分から25分後くらいには到着していたい。問題はこの天気だ。これくらいの雨なら、多少濡れたとしても傘無しで走り抜けるのはどうってことはない。
しかし、これから会う相手は、レイがびしょ濡れにでもなっていたら、顔を真っ青にして悲鳴を上げるような人間だ。せっかく久しぶりに会うのだし、出来る限り心配はかけたくない。
コンビニにでも寄って傘を買おうかと思ったが、駅構内の店に置かれていたものは全て売れてしまっていて、今日はなんだかついていないと溜め息をつく。もう少し多めに置いていてくれたならと愚痴りたくなるが、時間が惜しいので忘れることにしよう。
「なあ、あんた」
少しは濡れてしまうのを覚悟して途中のコンビニまで走ろうか、と気合いを入れていたところ、横から声をかけられた。目を向ければ、同じ年頃の少年がこちらを見ている。知り合いではない。
「この雨はすぐ強くなるよ。傘無しで出ないほうがいい」
言って、少年は左手に持った傘を差し屋根の無い空の下へと踏み出して、振り返る。ぼんやりとそれを見ていると、急に雨の音が変わった。彼の言った通り、雨が激しくなったようだった。
「ここで会ったのも何かの縁だし、途中までで良ければ、入って行くか?」
「え?」
「傘を買ってくつもりならコンビニまで、バスに乗るつもりならバス停まで。…まあ、無理にとは言わないけど」
苦笑した少年の様子に他意は感じられなかったので、せっかくだしとお言葉に甘えさせてもらい、駅を出て5分歩いた場所にあるコンビニまで入れてもらうことにした。その間も雨は激しく傘を叩いて、あのまま走り出していたら数秒で濡れ鼠だったなとしみじみ思う。
どうして見ず知らずの自分にわざわざ声をかけたのかと問えば、気まぐれだよ、と彼は笑った。
重なる偶然は必然に