「……ってことがあったなーって、ちょっと思い出してさ」
両手で服についた汚れを払ってから、クライサは振り返った。
そこにいた二人のうち、小柄な少年ーーエドワードが呆れたように返す。
「お前、そんなこと考えながら闘ってたのか」
「いいじゃん別に、問題無いし」
周囲の地面に倒れている男たちを一瞥し、兄弟の元へと歩いていく。ちょっとしたトラブルにより発生した戦闘だったが、当然のようにこちら側は無傷で終わったから問題無し。
「実はさ、あたしが軍人になる決意したの、それがきっかけなんだよね」
森を抜けるべく歩みを進めながら、再びクライサが口を開いた。
彼女が思い出すのは、まだ氷の二つ名を背負う前、彼女と初めて会った日のこと。
連続殺人犯を易々と倒してみせたレノの姿に感動をおぼえたのを、三年経った今でも覚えている。彼女を見て、自分も強くなりたいと思い始めたのだ。
軍部に顔を出したいと、戦闘の訓練を受けさせて欲しいとロイに頼んだのも、その頃のことだった。
「小さな暴れ馬が生まれたきっかけはレノだったのか…」
「その呼び方やめてくんない?」
彼女に近付きたくて、ひたすら体を鍛えた。訓練を積んだ。何度も怪我をして兄に叱られたりもしたが、訓練を辛いと思うことは無かった。
いつか、本当の意味で、彼女の隣を歩きたいと思っていたから。
「クライサって昔から強かったわけじゃないんだね…なんか意外」
「当ったり前でしょーに。アンタたちと一緒、努力の結果が今なんだよ」
「お前なら産まれた時からレベルMAXだって言われても納得出来るけどな」
「アンタはあたしを何だと思ってんだ」
今だって、彼女と同じ場所に立てる力があるかわからない。けれど、諦めないと決めた。
決して譲れない、もうひとつの目的。
「…久しぶりに会いたいなぁ」
誰に言うでもなく漏らした呟きは、前を歩く兄弟にも届いたようで。はぁ、と溜め息をついたエドワードが、不意に足を速めた。
「エド?」
「行くんだろ。さっさとしないと、汽車なくなっちまうぞ」
「……!うん!」
その言葉の意味を理解すると、彼女はすぐさま駆け出した。兄弟の前に出て、彼らを急かしながら森の出口を目指す。
またもや盗賊らしき集団に襲われ、行く手を阻まれたクライサが、怒りも頂点に敵を蹴散らすことになったのは、それから三十分後のことだった。
END.
この話はフィクションです(笑)
こんなエピソードがあったらいいなと思って書いてみました。クライサ、12歳時のお話です。原作沿いとアニメ沿いのコラボに挑戦したところ、どちらの要素も出てこないというまさかの展開に(!)
レノ嬢偽者過ぎてごめんなさい!でもミニなクライサと絡められて楽しかったよRayちゃん!
(四周年企画)