「知ってるだろ?最近多発している通り魔事件」

ハボックと名乗った彼の言葉に、クライサは頷く。
ここ二、三週間で七人も殺害されたという、連続通り魔事件。街中で話題になっていたし、ラジオでもよく取り上げられていた。
兄もよく話していたが、その犯人は先日捕まったと聞いていたため、安心していたのだが。

「その捕まった犯人ってのが、模倣犯だったんだよ」

「え!?」

「そいつが殺ったのは一人だけで、他の六人を殺した本当の連続殺人犯は捕まってなかったんだ」

ここまで聞けば、もうわかる。
今レノが対しているのが、その殺人犯だと言うのだろう。彼女がいなかったら、クライサは七人目の被害者になっていたのかもしれない。

それを知っていたから、ロイはクライサにレノを付き添わせたのだ。身を守る術の無い彼女を一人で出歩かせては危険だと判断したから。事件被害者のほとんどが、幼い少女だということもあったから。

「それで、奴が現れた時のサポートとして、俺がついて来てたってわけ」

「サポート?」

「取り押さえるのは少佐の仕事だから」

そう言って、彼は顔を上げる。クライサもその視線の先に目を向けて、殺人犯と闘うレノを見た。
振るわれるナイフを彼女は軽々と避け、その腹部に鋭い蹴りを食らわせると、男は呻き声を上げて倒れた。と、ハボックが呼んでいたらしい憲兵隊が到着し、気絶した男を捕縛する。

その後の処理を憲兵に任せたレノは、放り投げてしまっていた紙袋を拾い上げ、クライサたちのほうに歩いてきた。

「怪我は無い?」

「あ…大丈夫です」

差しのべられた手を握ると、腕を引かれて立たせられた。レノの視線を受けたハボックが、憲兵隊のほうへと歩いていく。それを見送ると、彼女はクライサに目を向けた。

バサリ、と食材の入った紙袋が地面に落ちる。今度はクライサが手を離したのだ。
そしてレノに抱きついて、服に顔を埋める。突然そんなことをされたものだから、少女に抱きつかれたレノは戸惑い顔だ。

「クライサ?」

「こわかった…」

小さく漏らした、本音。それを耳にしたレノは静かに微笑んで、空色の髪をそっと撫でた。

「……ありがとう」





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