まだロイ以外の人間と接するのは慣れなくて、レノともあまり目を合わせることが出来ていない。もっと話したいこともあるのに、なかなか言葉が出てこない。
人見知り癖のある自分が少し嫌になってしまったが、ふと見上げた彼女の顔にはそんなことを気にしている様子は無くて、無意識に安堵した。

いつか、この人とも自然に話せる時が来たらいいな。

そんなことを思って、いやいや自分は何を図々しいことを考えているんだ、と頭を振る。どうかしたのと降ってきた声に、顔を上げないまま何でもないですと返した。


(え、)

比較的ゆっくりとした足取りで歩いていたら、不意に背後に人の気配を感じた。ここはメインストリートなのだから、他に人がいるのは当然なのだけれど。ぴったりと、自分のすぐ後ろを歩く気配に、クライサは本能的に身震いした。

(なんで)

直感だった。このままではマズイ。
何が起こっているのかわからないが、それでも危険だけは察知していた。後ろを歩く気配が、徐々に近付いてくる。

すぐ後ろに。そして歩みの角度を少し変え、速度を上げる。
その気配がクライサを追い越すか否か、その刹那、激しい悪寒が少女の背を駆け上った。


「させないよ」


ぐい、と腕を引かれた。同時にクライサの前に出るのは、軍服の彼女。レノの向こう側に見えたのは、いかにもな悪人面をした若い男だった。

「ーー!!」

その手に握られたナイフを見て、先程の悪寒の意味を悟った。男が舌打ちをする。レノが腕を引いてくれていなかったら、彼に刺されていたかもしれない。

男とレノが対峙する。周囲にいた人々も立ち止まり、彼らから離れた場所で事を見守っている。
体が動かなくてそのまま地面に座り込んでいると、不意に肩に手を置かれた。

「!!」

ビクリと大袈裟に跳ねる肩。しかし耳に届いた声に、頂点に達した緊張は少し解れた。

「悪い、驚かせたな」

恐る恐る振り返ると、そこにいたのは、司令部で兄と同じ部屋にいたくわえ煙草の軍人だった。彼はクライサの横に膝をつくと、戦闘を始めたレノたちに視線を送る。





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