「門の外で困っているのを見つけてね。大佐の妹だってすぐわかったから、僕がここまで連れてきたんだよ」
落ち着いた口調でレノが言うと、クライサはバッと彼女を見上げた。
しかし、こちらに目を向けたレノの視線の意味を読み取って、え、と上がりそうになった声は無理矢理飲み込む。
ね?と首を傾げられたため、小さく頷いた。
「そうか。すまないな、レノ」
『門の外で困っていた』のなら、無断で軍施設に入り込んだと叱られることも無い。ロイや室内の全員が疑う様子もなく、話題はすぐに変わっていった。
「レノ、すまないついでに少しクライサに付き合ってやってくれないか」
「え?」
聞き返すよう声を上げたのはクライサだ。急に何を言い出すんだか。
どうやらロイは、彼女が兄の職場を見たがっていることに気付いていたらしい。司令部を少し案内して、その後家まで送ってやってほしい、と言うのだ。
「え!?い、いいよ一人で帰れるから」
「わかった。責任持って送り届けるよ」
「レノさん!?」
確かに司令部を見て回りたい気持ちはあるから、案内してもらえるのは嬉しい。だが、家まで送ってもらうなんて彼女の手を煩わせることはしたくない。司令部までは一人で来れたのだから大丈夫だと伝えたのだが、彼女はいいからと笑うだけだった。
司令部内を簡単に見て回り、帰路についた時には日も傾き始めていた。オレンジに色付いた空。昼間は込み合っているメインストリートも、若干人が減ってきたように見える。
「あの、レノさん」
「うん?」
「その……ありがとう」
隣を歩く少女を見下ろしたレノの視線の先で、クライサが照れくさそうに言って頭を下げた。
彼女の腕の中には紙袋が一つ。レノも片腕で同じような袋を抱えている。ついでだからと、夕飯用の食材を買うのにも付き合ってくれたのだ。
「どういたしまして」
ロイの元に連れていってくれたこと、クライサが叱られないようにと嘘をついてくれたこと、司令部を案内してくれたこと、そして今も付き合ってくれていることに対する『ありがとう』だったのだが、彼女にはしっかり伝わったようだ。
そっと頭を撫で、離れていった手に、頬を赤く染めて顔を伏せる。