あの後、クライサはレノに手を引かれて司令部の建物に足を踏み入れた。正面から堂々と。一階の受付の前を横切って。

ロイのいる部屋に連れていってくれるらしいから大人しくついて行くつもりなのだが、先程からすれ違う軍人たちの珍しそうな視線が気になって仕方ない。
まあ、この空色の髪が珍しいのは当たり前だと言えることなのだが(軍の施設に子供がいる、というのも珍しいのだろう)。

少しの間歩き続けて、漸くレノが足を止めた。彼女の前には一つの扉。クライサと繋いでいない方の手でノブを握り、ノックはせずにドアを開けた。
そこは司令室と呼ばれる、司令官とその直属の部下たちが仕事をしている部屋だった。ロイには別に彼専用の執務室もあるのだが、今はこちらで職務に励んでいるようだ。

「お疲れ様です、少佐」

室内に足を踏み入れた彼女らに最初に気付いた、眼鏡をかけた軍人の言葉で、他の面々が顔を上げる。
そしてレノの少し後ろに立つ少女を見つけて、一様に目を丸くした。
彼らが何か言うより早く、書類に集中していたロイが顔を上げ、出入口のほうを見る。その目がとらえたのは、レノと、見慣れた(しかしここにいる筈のない)少女の姿。

「クライサ!?何故ここに…!?」

勢い良く席を立ったロイは、バタバタと慌ただしく少女に向かっていく。
彼が正面に立つと、クライサは不安そうにしながら、左手に持っていた紙袋を差し出した。
それを受け取り、中身が弁当であることに気付いた彼は、驚きのまま固まっていた顔を笑みの形に弛める。

「わざわざ届けに来てくれたのか。ありがとう」

柔らかく笑って、伸ばした手でクライサの頭を優しく撫でる。
彼の手が離れると、少女の表情ははにかんだような笑顔になり、それを見下ろすレノも無意識に微笑んでいた。

「それにしても、よくここまで来れたな。門番に止められなかったのか?」

「あ…」

しかしそれもすぐに終わり、彼が口にした疑問にクライサは慌てる。
門番が見てない隙に侵入した、なんて言えば、叱られることは目に見えている。かといって嘘は言えないし、だが事実を伝えるには勇気が…と、どうしたものか迷っている少女の肩に、隣に立つ彼女が手を置いた。





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