「……!もしかして君…」
「え?」
こちらを見下ろす彼女は一瞬目を見開き、そして微笑みながら細めた。それから、どうかしたのだろうかと不安げに見つめる少女に、その手を差しのべる。
「おいで」
優しい微笑みを向けられてはいるが、彼女の行動の意図するところがわからなくて、少女は戸惑った。
ついて行ったら牢屋でした、なんてことは無いと思うが、どうするつもりなのかわからない以上、不安が消えることも無い。
そんな少女の心情を知ってか、彼女は手をのばしたまま、再び口を開いた。
「マスタング大佐に会いに来たんじゃないの?」
「!なんで…」
「ほら、おいで」
ニコリ、また笑う。何故こちらの目的がわかったのかは疑問だが、その笑顔があまりにも綺麗だったから。
ーー安心出来たから。
「……うん」
差し出された手を、握った。
「大佐から聞いていたからね。すぐわかったよ」
どうやらロイは、直属の部下たちに毎日のように彼女のことを話していたらしいのだ。妹ができた。それがまたべらぼうに可愛いのだと。
部下からその部下へと次々に話は伝わっていき、今では司令部中で『マスタング大佐の妹』は有名になっている。
どこぞの親馬鹿中佐のような兄の浮かれぶりに、その妹は恥ずかしそうにしながら謝罪した。もっとも謝られた彼女は、別にいいじゃないか、と笑っていたが。
「僕はレノ。レノ・リチャード。マスタング大佐の部下だよ」
「あ…あたしはクライサ…です」
「そう。よろしくね、クライサ」
ニコリと微笑みかけられた少女は、恥ずかしそうに顔を伏せた。返事の代わりに、繋いだ手をキュ、と握る。それにまた、レノは笑った。