イーストシティは東方司令部。
高い塀に囲まれた建物。門を守る軍人が少しの間目を離した隙に、彼女は敷地内に足を踏み入れた。
幸い周囲に人気は無く、軍の施設に侵入したことを咎められる心配も無さそうだ。ドキドキと高鳴る心臓。塀のそばで身を屈めていた少女は、意を決して立ち上がり、建物に向かって足を踏み出した。





決意の理由





やましい気持ちがあるわけではなかった。そう、最初は。

(お兄ちゃん、どこにいるのかなぁ?)

東方司令部司令官であるロイ・マスタングに引き取られて数週間。
漸く彼との生活にも慣れ、一人でも外出できるようになった。一、二ヶ月前までは他人と話すことすら出来なかった自分としては、なかなかの進歩だと思う。

そんなある日(要するに今日)。
非番の時以外毎日作っている弁当を、彼が忘れて行ってしまったのだ。軍には食堂があるのだし、特に困ることは無いかもしれないが、せっかく作った弁当だ。届けに行こう、と決心したのは、彼が出掛けて一時間後。
そして、今に至る。

門番に事情を話せばロイに届けてくれたかもしれない。だがそうしなかったのは、単なる好奇心ゆえ。彼が働いているのがどういう場所か、見てみたかったのだ。

(怒られる…よね)

誰かに見つかっても、ロイに直接弁当を届けても。不審者だと怒られるのも、勝手に入っては駄目だと怒られるのも嫌だけど。

(お兄ちゃんなら、)

彼なら、怒った後、しょうがないなと苦笑して頭を撫でてくれる筈。抱き締めてくれるかもしれない。彼は、そんな人だから。

正面から入ったのでは、受付で引っかかるかもしれない。というか絶対人がいる。さてどうしたものか、と建物の壁に背中をつけ、入り口を覗き込みながら考えていると、後方から声がした。

「君、こんなところで何してるの?」

振り返ると、そこにいたのは白い長髪を後頭部で結った、一人の軍人だった。見慣れない髪の色が、青い軍服に映えている。

(……きれい)

兄とは正反対の色彩。こちらを見下ろす碧の眼も、綺麗だ、と思った。

「…………あ!その、ごめんなさい!!」

初めて見る色彩だったものだから、思わず見惚れてしまった。すぐに我にかえると、慌てて頭を下げて謝罪する。
追い出されてしまうだろうか。それとも、侵入者として罰せられるのだろうか。





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