(レイは、知らないよね?)
彼女がイーストに来る度、食事に誘って街中連れ回したりしていたけれど、レイがクライサに満面の笑みを見せることはなかった。
(でも、)
彼女がクライサに向けるのは、心の底から安心しそうな、静かで優しい微笑み。それが嬉しくて、自分も自然に笑顔になれるのだ。
(その微笑みに、あたしがどれだけ満たされてるか……レイは知らないよね)
「エドワーズ准将!」
背後から聞こえた声に振り返った。金と茶の視線の先にいたのは、長い黒髪を高い位置で一纏めにした男。
食事を終え、街を歩いている時だった。
軍服姿のリオが二人の元へと駆けてきたのは。
「エックスフィート大尉」
「よう、リオンじゃねぇか」
「エックスフィート、こんな往来で、そんな大声で名前を呼ぶな」
「そりゃ失礼しました。ファーネスがすんげぇ探してましたよ。早く戻ってやって下さい」
とりあえず仕事の話らしいので、リオンは口を挟まず二人を眺めていた。
うーん、何と言うか。整った顔立ちの二人が並んでいるのは、男の自分でも、目の保養だなんて思ってしまう(実際、道行く女性たちの視線も集めていたし)。
「わかったわかった、今戻るよ」
どうやらクロフォードが司令部に戻る、ということで話が纏まったらしい。苦笑するリオと目が合った。
「それじゃあ、ここで失礼するよ。今日は有り難うな」
「ああはい、こちらこそ」
クロフォードにニコリと笑いかけられて、リオンは軽く頭を下げる。
結局あの後クライサは帰って来なかったが、彼は特に気を悪くした様子は無かった。けどまあ、奢ってもらったことに変わりは無いので、彼女の分も一緒に礼を言う。
顔を上げると、真剣な金眼と視線が合った。
「准将?」
「お前たち二人とも…後悔だけはするなよ」
「え…?」
どういうことかと尋ねても、もうクロフォードは答えなかった。またな、と笑って歩き出す。その後に続くリオと共に彼の視界から完全に見えなくなっても、リオンはその場を動けなかった。
『後悔だけはするな』
「二人って…俺とクライサのことか?」
その意味を理解するのは、ずっとずっと後の話。
END.
意味深なこと言ってるけど、特に続くわけじゃない←
【H20/07/20】