どうして、レイを知ってるの?
(准将は国家錬金術師だ。同業者と知り合いでも不思議じゃない)
どうして、レイと呼ぶの?
(親しいからに決まってる。あたしの知らない交友関係が、彼女にもあって当然なんだから)
どうして、
(ねぇ、どうして?)
「ここ最近、レイには会ってなかったが……元気そうで、何よりだ」
どうして貴方は、そんなに愛おしむようにレイを呼ぶんだ。
ダン、と。
店中に大きな音が響き渡り、リオンは目を丸くした。
テーブルに両手のひらを叩きつけて立ち上がった少女は、俯いたまま何も言わない。前の席に座る男も、彼女を見上げることなく黙って食事を進めている。
(……やれやれ、)
なんて重苦しい空気。どちらにも声をかけるべきでないと判断し、表面の冷めたドリアにスプーンを入れる。
少しの沈黙を破ったのは、クライサだった。
「ごちそうさま。あたし、行く」
頼んだパスタはまだ半分以上残っている。
しかしどちらも、彼女を止めることはしなかった。
椅子にかけていた上着を羽織り、布製の鞄を肩に掛けて、パタパタと走り去る彼女は振り返らない。
店を出るところまで見送ると、漸くリオンは溜め息を溢した。
「せっかく奢ってくれるってんだから、完食してけばいいのにな」
「いやぁ、若いな」
「准将、それ、なんかオヤジくさい」
「それは困った」
人の金だからと、図々しくデザートまで食べていくような性格のくせに。頼んだものを半分も食べずに去ってしまうなんて、珍しいこともあるものだ。
「友達なんだな、あの二人」
「姫とレイ?ただクライサがレイに甘えてるだけにも見えるけど……うん、アイツが甘える相手なんてそういないし、いい友達なんだと思う」
「そうか」
彼女が向かった場所はわかっている。きっと、いや絶対、中央図書館に行ったのだ。レイに会いに行ったのだ。
「准将さ、わざとつついたろ」
「何のことだ?」
素知らぬ顔で食事を進める彼に、リオンはそれ以上何か言うことはせず、苦笑した。
思い浮かぶのは真っ直ぐに駆ける空色の少女と、彼女が会いに向かっている銀色の少女。
クライサに絡み付かれて困っているレイの顔が想像出来て、クロフォードに隠れてクスリと笑った。