「俺も混ぜてくれよ」
「「!!」」
突然背後に感じた気配。
振り向きざま、左右に分かれるようにしてその場を離れる。同時に鈍い音が聞こえ、距離をとってから確認するとそこにはアルフォンスの鎧ほどの大男がいた。その拳は、先程までレイたちがいた辺りの地面にめり込んでいる。
「ふぅん…」
「ちょっとは腕のたつ奴がいるみたいだね」
アームストロング程ではないが、よく鍛えられているらしい筋肉。服の上からでもよく分かるそれは、彼女たちに
(正直、相手にしたくないな)
と思わせるには十分だった。
「クライサ。こいつはあたしに任せて」
レイが足を踏み出す。それにクライサは黙って頷き、先程の二人組に向き直った。
見たところ、あの大男はこちらの二人の倍は強い。けれど
(レイは、それよりもっと強い)
「二人まとめてかかってきな。さっさとケリつけてやる」
強気な笑みを向け、クライサは言った。
男たち三人が早々にこの場を離れようとしないのは、恐らくまだ爆弾が作動していないからだろう。ならば彼らを倒してしまえば、司令部を爆破される心配はとりあえず無いということだ。
(案外やるなぁ)
構え直しながら、溜め息をついた。
特別手強いわけではない。だが、簡単に倒れてもくれない。打たれ強いのか知らないが、一番戦いにくいタイプの相手だ。戦っていて、正直つまらない。
レイのほうに目を向ければ、そちらも少々てこずっているようだ。
彼女は『雷神』の異名を持つ国家錬金術師である。錬金術を使えば、あんな見た目だけの男は瞬殺だろう。
……と、いうか。
(むしろあたしが錬金術使っちゃおうかな…)
素手で戦うのも面倒になってきた。錬金術を使って早々に切り上げてしまおうか。
男たちの攻撃を軽く避けながら、クライサは周囲に視線を巡らす。中庭の隅に蛇口に繋がったホースを発見し、そちらに走り出した。当然男たちはそれを追う。
「逃げんのかぁ!?」
「さっきまでの威勢はどうした!!」
少女が自分たちから逃げているのだと勘違いし笑う男たち。
目的のホースを掴み足を止めたクライサは、彼らのほうに振り返り、笑った。