笑っている。
それはもう綺麗な笑顔で。
なのに、背筋を冷たい汗が伝う。
『これ以上邪魔するなら容赦しないよ』
そう告げられているような気がして、固まってしまった。指一本も動かせない。
「ていやーっ!!」
「へ?…ってギャァァァァア!!」
クライサの繰り出したドロップキックが顔面にクリーンヒットし、試合終了のゴングが鳴り響いた。
「噂通りだね」
「何が?」
食後の珈琲を喉の奥に流し込み、クライサは言った。
大通りに面した、若い女性に人気のカフェ。飲み物やデザートの種類も豊富で、軽食なども取り揃えている。内装もお洒落で、客足も絶えない。
その店の窓際のテーブルで向かい合うように席に着き、昼食を終えた二人。
「外見は凄く可愛くて、中身は強い。戦闘能力では右に出る者はいない」
カップを机上に戻しながら少女は続ける。
「聞いた通りだった」
司令部勤務中によく聞く噂。
エルリック兄弟と共に旅をしているという黒白の錬金術師。兄弟(特に兄のほう)の活躍により、何かと話題の三人組。
以前少なからず接点があったエドワードと旅しているのが、どんな人なのかと気にはなっていたが、実際に会うことになるとは思わなかった。
たまに視察等で司令部に来ることもあるらしいが、決まってそういう時、クライサは非番だったり視察、出張だったりする。いつかゆっくり話してみたいとは思ってたのだ。
が、それはレイとて同じ。
「あたしも聞いてたよ。クライサの噂」
たまに視察のために司令部へと戻ってくると、ロイが色々な話をしてくれる。
東部の情勢、部下たちとの世間話、オススメのカフェ等の話。主にデートのお誘いだが。
そして時折、何故だか彼は嬉しそうに話す。後見している、国家錬金術師の話を。
そういえば幾度かエドワードからも聞いたことがあった。何年か前に出会って、共に悪戯をした友達だと。