stage 1
「おや。レイに氷のじゃないか」
廊下を歩いている途中、背後からかけられた声。二人同時に顔を歪めた(一方は舌打ちも加えて)。
「……大佐」
「……ちっ」
振り返りその顔を窺うと、またも同時に吐き出された溜め息(そして再度の舌打ち)。彼女らの視線の先に立っていた男性、ロイは、その様子に顔を引きつらせた。
「人の顔を見るなり溜め息をつくとは…随分失礼な態度じゃないかね?」
「しょうがないでしょ。会いたくなかったんだから」
「これから黒白さんとデートなの。邪魔しないで」
「デート?」
「うん。お昼食べに」
そう言ってレイの手を取ると、クライサはロイに背を向け歩き出した。しかし、その足はすぐに止まってしまう。振り返ると、
「……大佐」
「なんだね?」
無駄に爽やかな笑顔を浮かべる29歳。その手はしっかりとレイの腕を掴んでいる。
「離してくれない?腕が痛い」
「君は私とデートだろう?氷のはまだ仕事が残っている」
「誰が誰とデートだって……っわ!」
ぐ、と掴んだ手に力を込め、レイの体を引き寄せる。あ、と声を上げたクライサの手から彼女を奪い、その細い身を抱き締めた。
しかし
「……午後は休みの筈だよ。仕事があるのは大佐でしょ」
「ぐ……!」
クライサは諦めない。レイを抱き締めているロイの腕を思いっきり抓りながら、口元に笑みを浮かべる。もちろん目は笑っていない。徐々にロイの腕から血の気が引いていった。
「……大佐」
そしてレイとて、ただ黙って為すがままにされるわけもなく。
「死ぬ?」
この上ない笑顔。超絶スマイルである。
なのに背後に黒いオーラが見える、レイのそれを見せつけられ、ロイは心に五万のダメージを受けた。