「あーあ、帰る前にもう一度クラちゃんを抱き締めたかったわー」
「怪我が悪化する。やめなさい」
病院のロビーまで来ると、ロイの迎えに来たらしいハボックがこちらに敬礼していた。が、近くまで足を進めれば、その手を下ろしクライサに向け笑いかける。
「災難だったな、クライサ」
「まったくだよ。誰かさんが協力しろだなんて言わなければ、こんな怪我しなくて済んだのに」
チラリと兄に視線を送る。それに気付いたらしいロイが苦笑した。
「…でもな、お前が大将におぶられて研究所から出てきた時、大佐すんげぇ慌ててたんだぜ?お前は気絶してるし、中佐は怪我してるしでさ」
「ハボック!余計なことを言うな!!」
「あら。あの慌てっぷりはなかなか面白かったわよ、ロイロイ?」
「へー、本当なの?ロイロイ」
「その呼び方はやめろ!!」
そんなわけで。
「…やっぱりクラちゃん抱き締めちゃダメ?」
「ごめんねイルミナさん、さすがに肋骨キてるから勘弁して」
「鋼のたちが図書館にいるぞ。そっちに行ったらどうだ?」
「ナイスアイデア!さっすがロイロイ!!」
「だからロイロイ言うな!!」
標的がエドワードになってしまったことに、内心手を合わせる。が、引き止めるつもりはサラサラ無い(頑張れエド!)。
「じゃあね、クラちゃん。今度うちの司令部にも遊びに来て!」
「うん、南部に行った時に寄らせてもらうよ」
嬉々として図書館へ向かうイルミナを、
「じゃな、クライサ。怪我が治るまでは安静にしてろよ」
「たまには司令部に戻ってきなさい。お茶の一杯でも出そう」
「りょーかい。お兄ちゃん、仕事サボらないようにね。少尉、お兄ちゃんをよろしく」
仕事に戻るべく病院を後にするロイとハボックを、見送る。
かくして、東方・南方両司令部の共同戦線は幕を閉じたのだった。
「そういえば『紅い秘石』の話は本当だったの?エド、アル」
「…あー…」
「うーんとね…」
「……もしかして、また?」
「…………デマ」
彼らの旅はまだまだ続く。
END.
【H18/08/01】