ロイから事後報告を聞きながらも、クライサはつまらなそうに視線を彷徨わせている。元々じっとしているのは苦手なのだ。暴れたい、とまでは言わない。遊びにいきたい。
「……ねぇ、お兄ちゃん」
「駄目だ」
キッパリと切り捨てられた。さすが兄上殿。思考回路はバレバレらしい。
「すぐにでも動き出したい気持ちは分かるが、今回ばかりは大人しくしていなさい。君は怪我人なんだ」
「……ちぇー」
エドワードとアルフォンスは既に、賑やかな商業都市に戻ったロスタリアで情報収集をしている。たまにはゆっくり休め、と言われているし、毎日顔を見せに来るから、置いて行かれる心配は無いが。……やっぱり暇だ。
「事後処理もほとんど済んだことだし、仕事も溜まっているから、我々は明日には司令部に戻るよ」
「ええ!?そんな…可愛い妹を置いていくのね!?」
「暇を潰す相手が欲しいだけだろう」
「バレた?」
早く完治させて旅を再開したい。これではエドワードたちの邪魔にしかならないじゃないか。……というより、体を動かしたくてしょうがない。
(そういえば、)
「イルミナさんは?あれから見ないけど」
「彼女も一応指揮官だからな。怪我人とはいえ、やるべきことが多いんだよ」
指揮に戻る、と病院を後にしようとするロイを見送るため、クライサは兄と共に病室を出た。廊下を歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「ああもう分かったわよ!帰ればいいんでしょ!?帰ればっ!!」
電話を相手に怒鳴り声を上げるその人に、ロイは呆れたように大きな溜め息をつく。と、その人物の元に歩み寄り
「場所をわきまえろ。病院では静かにしたまえ」
すぱん!とその頭を叩いた。
「いったぁぁああッ!!」
「ほらまた。君は一度じゃ分からんのか」
「いや、今のはお兄ちゃんのせいだと思うよ」
「あ!クラちゃん怪我の具合はどう!?お見舞いに行きたかったんだけど、部下たちに捕まっちゃってねー!!」
「…これも私の責任だと思うか?」
「ごめん、あたしが間違ってた」
南方側の隊の指揮を部下に任せ、怪我の療養…がてら休暇を取ろうと試みたイルミナだったが、その連絡を司令部に取った際に腹心にどやされ、南部に戻らなければならなくなったそうだ。ロイ同様、彼女も優秀な腹心をお持ちらしい。