慌てて制止をかける彼女の声に聞く耳を持たず、男は出口である扉を開ける。そこから走り出した瞬間、
「なっ!何だ、おまゴフゥッ!!」
男は顔面にドロップキックを喰らい、室内に倒れ込んだ。
「イルミナさん!クライサ!無事か!?……っていうかコイツか!!首謀者!!」
「もう兄さんったら、もうちょっと穏便に済ませようよ…」
「エド君!?アル君まで!!」
扉から室内へと姿を見せたエドワードとアルフォンスに、イルミナは驚きの声を上げる。その声に彼女の無事を確認し、安堵しつつエドワードはそちらに顔を向け、固まった。
「……クライサ…?」
イルミナの腕の中で気を失っている、一人の少女。その姿は傷だらけで、いつもの元気な笑顔は消えてしまっている。
「クライサ!!…イルミナさん、クライサは…!?」
「大丈夫、気を失っているだけよ」
すぐに彼女に駆け寄ったアルフォンスとは真逆に、エドワードはただその場で少女を見つめていた。
が、男は動いてしまった。その場から逃げようと。
「……おい」
「はひぃい!?」
「…テメェ…覚悟は出来てるんだろうな……?」
その時のエドワードの表情は、言葉では言い表せない程に恐ろしいものだったそうな(後日談)
軍の研究所をクビになり、軍に復讐すべく研究を重ねていた男が首謀者ということで、事件は終わりを迎えた。
研究所にいた合成獣は、建物内・外どちらも生きているものはおらず、ロスタリアの街を襲うものはいなくなった。
首謀者の男はといえば、ある少年によって半殺しーーもしくはそれ以上にされ、未だに入院中である。
「せーせーした!そのぐらいやっといてもらわないと、あたしの気もおさまらないよ」
未だ不機嫌な様子でクライサは言った。
彼女の怪我は、肋骨の損傷、左腕の骨折等、かなり重いものだったのだ。おかげで、暫く病院で安静にしていなければならなくなってしまった。
「あー…今になってまた腹立ってきた。アイツぶん殴りたいなぁ」
「無茶を言うな。あの男は既に中央に送った。怪我が治り次第、謀反者として裁かれるだろう」