「……で。どーしてここに大佐がいるわけ?」
目の前で偉そうに腕を組み笑っている男に、クライサは溜め息をついた。
先程の少女を家まで送り届けたアルフォンスが、見慣れた人物を引き連れてクライサたちの元へと戻ってきた。
それがロイ・マスタング。漆黒の髪を携えた、東方司令部の司令官である。……と同時に、クライサの兄であり、エドワードの毛嫌いする存在であったりもする。
本来司令部にいる筈の彼が、何故こんな、東部の外れともいえる街にいるのだろうか。
「この街で合成獣による事件が多発しているのは知っているだろう?」
「ええまぁ、身をもって。…まさかそれの解決のために、わざわざ大佐が出て来たの!?」
以前東方司令部で働いていた頃、何度か合成獣に関連する事件を担当させられたことがある。
合成獣が錬金術により作られた存在であるため、錬金術師であるクライサが抜擢されたという理由もあるが、同じ錬金術師でも、大佐、更には司令官の地位に就いているロイがわざわざ出る程でもなかった、というのが大きな理由だった。
それがどうして今、彼ほどの者が出てきているのだろう。
「知っての通り、ここは東部と南部の境界となる街だ。そのために東方司令部と南方司令部のどちらがこの事件を担当するか、という問題が生まれてしまってな。……さて、君だったらどうする?」
「司令官同士でジャンケン」
「……まあ、君らしいと言えばらしいが」
大の大人が仕事のなすり付け合いのためにジャンケンに励む。間抜けなことこの上ない。
「中央でちょっとした会議が行われてな。最終的に、両司令部から一人ずつ指揮官を出す、ということになったんだ」
要するに『協力してさっさと事件を終らせろ』ということらしい。
「…ってその指揮官にわざわざ大佐が出て来たってこと!?バカじゃないの!中尉や少尉達で十分でしょ!」
「仕方ないだろう…南方司令部側の指揮官に、イルミナが出てきてしまったのだから」
「…………あー、そういうこと」
相手が佐官レベルで来るなら、こちらもそれと同等のものでいくしかないだろう。そのために、司令部のことは腹心に任せ、ロイ自らが指揮官として現場に出て来たのである。